『グーグルが消える日 Life after Google』の面白かった箇所書き出し


こういう、新しいテクノロジーにまつわる雑多なエピソードがたくさん集められた本を読むのは大好きだ。

Googleが作り出そうとしている未来について語る本は多いけれども、この本のように、Googleを消えゆく存在として、その後の世界について想像をめぐらせた本は珍しい。

Googleは無料でサービスを提供する代わりに、「時間」という、もっとも希少性があるもので対価を払わせているという解説は面白かった。

この本が語る未来が果たしてどの程度の妥当性があるのかは、よくわからない。
まだまだGoogleが様々な分野を支配する構造は続きそうに思えるし、そもそもGoogle自身が、未来のトレンドを的確に予測して、みずからの在り方を変えていきながら適応していく可能性も十分に考えられる。

Google後の主役となる候補として、ブロックチェーンをベースに個人情報を自分で管理する「ブロックスタック」の技術を取り上げていたけれど、今のところあまり存在感がなく、いまいち、この先普及していくような感じがしない。

数年後には、今の時点では想像もつかない事態になっていても不思議はないので、この本に書かれていることの答え合わせは、わりと早い段階でできそうな気がする。

名言

マルクスは典型的な知識人で、自分が生きる時代が人類の歴史の最後のステージだと考えていた。この「最後の出来事」が目の前で起こっているという考え方を、ウィリアム・F・バックリーは「内在する終末」と呼んだ。
シリコンバレーの巨人たちの新マルクス主義は、かつてのマルクス主義と同じ考え違いをしており、蒸気機関や電気に代わってシリコンマイクロチップや人工知能、機械学習、クラウドコンピューティング、アルゴリズムを使った生物学、ロボット工学などの現代技術が、人間の「最終的」な功績だと信じている。
その発想は、まさに一時的な視野狭窄であり、近視眼的発想である。(p.19)

チャイティンが証明したのは、たとえば、物理の法則だけでは化学や生物学の現象に比べて情報が少なすぎるので、化学や生物学の説明ができないということである。(p.35)

「ビッグデータ」は、ニュートンとは正反対の発想でもある。
人間の脳がゆっくり、不器用に一歩一歩行っていた知識の検索を、「世界中のすべてのデータをひとつの『場所』に集められる」「それらを分析する包括的なアルゴリズムを書ける」という2つの条件がそろえば、代替可能だと考える。(p.38)

一般的な企業であれば、情報へのアクセス権を売却するか、情報のアクセスに必要なソフトウェアの使用料を徴収したかもしれない。
たとえ1サーチあたり1ペニーでも、検索エンジンは年間130億円を売り上げ、そのほとんどが純利益になる。あらゆる資本主義の成長モデルでは、価格が下がるにつれて購入量は増え、利益が増加し、蓄積していく。
だが、グーグルは”普通”の企業ではなかった。
グーグルは、すべてのコンテンツと情報を”無料”で提供するという大胆な決断をしたのだ。
アメリカ学術界隈の申し子であるブリンとペイジは、「成功」とはお金ではなく名声、何よりもテニュア(学術機関での終身在職権)にあると思っている。この界隈の住人たちは、周囲に自分が一番輝いている人と思われたいのだ。グーグルの文化も、学位やテストスコア資格などにとりつかれている。グーグルには、ブルジョア社会の金に貪欲な姿勢を蔑視する哲学もある。(p.48)

価格が無料というのは、バーター取引による利益である。金銭で対価を支払っているのではなく、「注目すること」で支払っているのだ。わかりやすく言えば、「時間で支払っている」ということになる。
時間が代金の指標や代理になるのは、「限界費用ゼロ」社会においてほかのものが豊富になっても、時間の希少性だけは変わらないからだ。(p.61)

グーグルは「高速RAM」を大量に配置した。RAMはディスクストレージに比べて、1バイトあたり100倍近くのコストがかかる。通常、エンジニアはあらゆる代替手法を使ってディスクドライブをあたかもRAMであるかのように機能させようとする。
しかし、グーグルは、何より貴重な資源は時間であり、検索するユーザーには忍耐力がまったくないと考えている。なにしろ、20分の1秒で結果が出ないと満足しないというデータもあるほどだ。
アクセススピードは、RAMのほうがディスクよりも1万倍も速い。つまり、アクセス時間を考えれば、RAMはディクストレージよりも100倍安いということになる。(p.87)

次のイノベーションの波が来れば、現在の同時並行的な解決法は、電子工学と光学の進化上の収束点に集約されるだろう。具体的にいうと、3Dのホログラフィックメモリ、チップの上部に刻まれ銅製のピンを光子の流れに置き換えるレーザー、全光学的ネットワーク(その中では、何千色もの光が1本のファイバー内を移動する)などが挙げられるだろう。(p.91)

クロード・シャノンが示したように、95%という成功率は、それがたとえ99.999%であっても、人を迷わせる。いつAIが誤るか、私たちにはわからないからだ。
サブプライム住宅ローンをきっかけにした金融危機の際も、住宅ローンの圧倒的多数は健全だった。しかし、どれが健全でないのかが誰にもわからなかったため、すべての債権が暴落してしまったのだ。いつ事故が起こるかわからない自動運転の車になんて、誰も乗りたくないだろう。(p.100)

テグマークによると、今後は物理学の新しい法則さえAIから生まれることになるようだ。
「超知的なコンピュータが、コンピュータのセキュリティーに関する人間の理解力を超越し、現在の私たちより多くの物理学の基本法則を発見するようになれば、コンピュータが突如目の前から消えたとしても、おそらく何が起こっているのかわからないだろう。」(p.143)

国際単位系(SI)が定めた7つの重要な測定単位(時間の秒、長さのメートル、重さのキログラム、熱力学的温度のケルビン、電流のアンペア、分子数のモル、光度のカンデラ)は、いずれも物理定数に基づいている。
SIレジームは、不変の測定指標の根底にあるのは「時間」だということを認めている。
時間は、宇宙を構成する要素の中で、不可逆性を持つ唯一の要素である。(p.378)

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グーグルが消える日』(ジョージ・ギルダー)