小さい頃に習った時代遅れの知識が判断を誤らせる。『FACTFULNESS』


たった一冊の内容だけで、読んだ後にこれほど自分の認識が一変するような本があっただろうか。

自分自身の、世界に対する認識がどれくらい正しいかを確認するためのテストが冒頭で示されている。
3つの選択肢から一つを選ぶ3択式のテストで、設問は全部で12問。全世界の人々がこのテストをおこなったところ、平均正解率は2問だったという。
チンパンジーが適当に選んで回答をしても4問は正解するはずなので、それよりも低かったという結果になる。

僕自身も、ほとんど正解できなかった。
何でこうなるかと考えてみると、小学生の頃に習った知識が、役に立たないだけではなく邪魔をして、誤った選択をする方向に作用していたからだった。

人間は、一度学んだことが、そのままずっと使い続けられると思いがちだ。
たしかに、数学や物理の法則は、自分が生きている間ずっと有効だけれど、社会科学については、人間の感覚と思いっきりズレが生じるぐらいに急激に状況が変化するので、人間の認識が追いつけないのだろうと思う。
特に近年は、変化のペースがスピードアップしていて、昔であれば一生涯アップデートする必要のなかった知識が、あっという間に古くて使い物にならない知識になってしまう。

この本が最高なのは、ところどころに挿まれる、人間がいかにして認識を誤るかについての小さなエピソードが、とても示唆に富んだ面白い話しばかりであることだ。
その多くは、単なるデータから導き出した結論ではなく、作者のハンス・ロスリング自身が経験した体験や会話に基づいているために、そのどれもが、とても心に響くエピソードになっている。

「FACTFULLNESS」の概念そのものも、とても有用なものだけれど、この本がより深く教えてくれるのは、もっと基本的な、人間理解の原則についてなのだと思う。

名言

あなたは、次のような先入観を持っていないだろうか。
「世界では戦争、自然災害、人災、腐敗が絶えず、どんどん物騒になっている。金持ちはより一層金持ちになり、貧乏人はより一層貧乏になり、貧困は増え続ける一方だ。何もしなければ天然資源ももうすぐ尽きてしまう」
少なくとも西洋諸国においてはそれがメディアでよく聞く話しだし、人々に染みついた考え方なのではないか。わたしはこれを「ドラマチックすぎる世界の見方」と呼んでいる。精神衛生上よくないし、そもそも正しくない。(p.21)

この本を読んでいるあなたは、レベル4の暮らしをしているに違いない。生まれたときからレベル4にいる人には、ほかの3つのレベルがそれぞれ大きく異なることを想像するのは難しい。世界の残りの60億人の生活水準を正しく理解するには、相当気をつけないといけない。(p.49)

1日1ドルの極度の貧困にいる人たちは、1日16ドルどころか、1日4ドルも稼げるようになれば、どれほど良い暮らしができるかを知っている。靴すら履けない人たちは、自転車があればどれだけ良い暮らしができるかを知っている。いままでより何倍も速く、そして楽に市場にたどり着けるようになれば、どれだけ豊かに暮らせるかを知っている。(p.58)

1800年まで、女性ひとりあたりの子供の数は平均6人だった。本来なら、人口は増えていくはずだ。しかし、そうはならなかった。古代の遺跡には、子供の骨が多く埋まっていると話したことを思い出してほしい。6人の子供のうち4人は若くして亡くなってしまい、大人になれるのは2人だけだった。だから、人口が増えなかった。昔の人は、自然と調和しながら生きていたのではない。自然と調和しながら死んでいったのだ。
そして現在、「子供から大人になる人の数」は、再び一定になった。しかし、昔とは事情がまったく違う。親は子供を平均2人つくり、2人とも大人になることができる。すばらしいことだ。人類史上初めて、人は自然と調和しながら生きられるようになった。(p.112)

以下のような見出しのニュース記事を書こうものなら、すぐにボツにされるだろう。
「マラリアの感染数、依然として減少」
「今日のロンドンの穏やかな天気を、気象学者がきのう正確に予測」
一方で、地震・戦争・難民・病気・火事・洪水・サメによる被害・テロなどは、関心フィルターを通り抜けやすい。

中国とベトナムの戦争は、休戦期間も含めると、2000年以上続いた。フランスに占領されていたのは200年間。「対米抗戦」があったのは、たったの20年間。記念碑の大きさは、戦いの長さと完全に一致していた。いまのベトナム人にとって「ベトナム戦争」は、ほかの戦争に比べたらそれほど大ごとではなかったのかもしれない。記念碑の大きさを比べるまで、わたしはそのことに気づけなかった。(p.172)

ナイジェリアと中国のレベル2家庭では調理方法がほとんど同じだったことを思い出してほしい。あの中国の写真だけを見た人は、「なるほど、中国ではこうやってお湯を沸かすんだな。鉄瓶を火にくべるのか。それが中国の文化なんだ」と思うだろう。だが違う。世界中のレベル2の人たちはみんな、同じような方法で湯を沸かしている。つまり、所得の問題なのだ。それに、中国でもそれ以外の国でも、違うやり方で湯を沸かす人たちがいる。それは文化の違いではなく所得の違いによるものだ。(p.205)

アジアやアフリカの国々で見かける「男らしさ信仰」は、アジアの価値観でもアフリカの価値観でもない。イスラム教の価値観でもない。東洋の価値観でもない。それは、たった60年前のスウェーデンであたりまえだった頑固オヤジの価値観だ。社会と経済が進歩すれば、そんな価値観は消えてなくなる。変わらない文化などない。(p.230)

近代医学が発達する前、最悪の皮膚病は梅毒だった。気味の悪い見た目と耐えられないほどの痛みを引き起こすこの病気は、国によって呼び名が違っていた。ロシアではポーランド病と呼ばれ、ポーランドではドイツ病と呼ばれた。ドイツではフランス病。フランスではイタリア病。イタリアはやり返したかったのか、フランス病と呼んでいた。誰かに罪を着せたいという本王は、人間によほど深く根付いているのだろう。(p.275)

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