龍(RON)全21巻(村上もとか/小学館)
コミックで全42巻あった「龍」が、文庫版で全21巻になってリニューアル発刊されていたものが、今年の4月に完結した。
これほど物語のはじめと終わりで、内容が変わってしまっているマンガも珍しい。途中から、舞台が日本から中国に移り、その前後ではまったく別の作品になってしまっている。
前半の、昭和初期の京都を舞台にした「武専(武道専門学校)」の話しのあたりが、「六三四の剣」のようなさわやかな雰囲気で一番面白かった。
後半に入ると、第二次世界大戦前から対戦中の間の史実に基づいた、日本・中国・満州・ロシア史というような雰囲気になっている。
話しが進むに従ってだんだん、主人公の龍が人間離れしてきて、いろいろと設定にも無理が出てくるようになってきた。しかし、後半の部分は主人公よりも、実在の人物であった、満州皇帝や甘粕氏、周恩来、鄧小平、毛沢東、スターリンなどが登場して、それぞれが物語と密接に関連してくるというところの面白さがある。
作品の中で描かれている風景や建物も、史料を元にした、かなり正確なものだろうと思う。特に、終盤の舞台はほとんどが満州になるので、今まで地理的な場所もよくわからなかった、満州という国が出来るまでのいきさつや、ソ連・朝鮮との政治的な関連も詳しく書かれていて、とてもわかりやすい歴史の勉強になった。
大河ドラマと呼ぶにふさわしいスケールで、ちょっと話しは長いけれども、昭和初期の日本という国を知るには、これ以上ないくらいの良いテキストだと思う。
■名言
お前は金とか権力を遠ざけ、求道者のような生き方をよしとしているようやが・・大きな器に合った大きな生き方をしようと思ったら、金も権力も人間も使いこなすだけの度量が欲しいで。(6巻p.160)
甘粕さん、オレも日本人やった頃は、いつかは、満州国建国の理想の五族協和、王道楽土を成しとげられるものと信じていました・・。
そやけど、中国人になった今は、よう解ります。秘宝が皇帝の手に戻ったとしても、この国が世界に認められることはない・・この国は真っ赤な偽物です。(15巻p.184)
龍当家・・馬賊の頭目の中で誰もが一目置く存在になるには条件がいる・・
武術や拳銃に優れるとか知恵や交渉力があるとか・・しかし、情けと涙で漢たちの心を掴んでしまった頭目は、あなたが初めてだ。(19巻p.197)