未来を予見する「5つの法則」(田坂広志/光文社)
以前の著作の「これから何が起こるのか」と「使える弁証法」で述べられていたことが、ミックスされて、さらに要点をまとめて整理された感じの本。
前作では、「螺旋的発展」という内容に一番重点がおかれていて、それに大きなインパクトを受けたのだけれど、この本の中では「矛盾による発展」ということについての説明が、かなり衝撃的だった。
例えば、企業における「利益追求」と「社会貢献」、「短気収益」と「長期戦略」、政策における「市場原理」と「政府規制」、というような対立するニ項がある時、どちらかに決めてスパッと割り切るのではなく、その中庸を選択するのが、今後重要になるのだという。
「バランスを取る」というのはソフトな言葉だけれども、それではまだ中途半端で、本来であれば相容れないはずのものを自分の心の中に同居させて、一つ高い次元へと止揚させる器の大きさが、ここで言われている「矛盾のマネジメント」だ。
これは、「キリスト教」対「イスラム教」、「先進国」対「新興国」というような、さらに大きな枠組みに対しても、同じように適用出来る。この、多くの価値観を認めるという考え方は、まさに、21世紀の理想形を言い表したものだろうと思う。
田坂氏の本がいいのは、ビジョンの方向性の表現の仕方がとても前向きなことだ。
個人が、仕事とプライベートで異なったペルソナを持って、別々の表現するというのは、とらえ方次第では、現代の病理の一つとして片付けられてしまうこともある。
しかし、この本の中では、その多様性はそれぞれの個人にとって大切な「癒し」と解釈されて、しかも「矛盾による発展」のために必要な要素であると言っている。
著者の目からは、本当にシンプルな形で、世の中の進み方の原理が見えているんだろうということが、よく伝わってくる。西洋の知識と、東洋の心とが融合されたような奥行きがある。その思考のエッセンスが、とても読みやすく、わかりやすい形で表現された、素晴らしい本だと思う。
【名言】
「存在するものは、合理的である」
このヘーゲルの言葉は、何を語っているのか。
現実に世の中に存在したものには、必ず「意味」がある。
そのことを語っているのです。
すなわち、この世の中に存在したもので、
全く「意味」が無いにもかかわらず、存在しているものはない。
ただ、時代が変わり、社会が変わったことによって、
その「意味」の大きさが変わり、相対的な「重要度」が低くなったため、
社会の表面から姿を消したにすぎないのです。(p.61)
ネットワーク社会における技術や商品やサービスは、
それが多くの人々が使うものになればなるほど、
誰にとっても役に立つ技術や商品やサービスになり、
ますます多くの人々が使うようになるのです。
「ユーザー数」が増え、ある一定の水準を超えると、
そこから「自己加速」が始まり、社会や市場の性質が、
急速に、そして大きく、変わっていく。(p.128)
世の中の物事が、変化し、発展し、進化していくのは、
その物事の中に「矛盾」があるからである。
そして、その「矛盾」こそが、物事の発展の「原動力」であり、
物事を変化させ、発展させ、進化させていく
「生命力」に他ならない。(p.147)
かつて、文化人類学者、レヴィ・ストロースが、
「文明」と「未開」という言葉の持つ落とし穴を鋭く洞察し、
我々が「未開」と呼ぶ人々の中に、
実は、優れた智恵が数多く宿っていることを述べましたが、
まさに、その言葉通り、かつての「古い文明」の中に、
優れた「生命論的な智恵」が、数多く眠っているのです。(p.223)
ソーシャルブックシェルフ「リーブル」の読書日記