YOSHIKI


YOSHIKI(小松成美/角川グループパブリッシング)

著者は、本人から直接インタビューをしたわけではなさそうなので、どこまで許可をとっているのかわからないけれど、ワイドショーや週刊誌的な好奇の視点での書き方ではなく、かなり客観的に、YOSHIKIという人間について深く掘り下げているところに好感がもてた。
本人が自伝的に書くよりも、こうして、表現力のあるライターが、徹底的に分析して書いた伝記のほうが良い内容になりやすいのかもしれない。
「HIDEの死」という内容を最初と最後に置いて、それを中心にして「X」について語ろうとしているけれど、一番面白かったのは、それよりも、「X」というバンドが結成されて、メジャーデビューするまでのところだった。
この、高校時代のバンド結成からメジャーデビューまでの軌跡を見ると、YOSHIKIの、もともと持っている根性がハンパなものじゃないということがよくわかる。
実家がたまたま裕福な家庭であったという幸運はあったにしても、「X」のデビューと成功を決定づけたのは、間違いなく、彼の圧倒的なまでに執拗な努力と根性のたまものだったのだろうと思う。
妥協を許さない、凄まじいまでの完璧主義。
メンバーのそれぞれの性格や、当時の軋轢の歴史を知ってから、ライブの映像を今見てみると、困難を乗り越えて、いかに完成度が高い奇跡的な演奏が実現していたかということが、あらためて実感出来る。
この本を読んで、一人の人間が、その才能と精神によって成し遂げられることの大きさを感じた。歴史上の偉人の伝記を読んだような気分だ。
TAIJIも故人となった今、一層「X」というバンドの神秘性は増した気がする。
【名言】
「同情なんかじゃないよ。俺は歯のない奴なんて、殴る気にもならないからな。頑張れよ、TAIJI。せっかくHIDEが会わせてくれたんじゃないか」(p.42)
普段の冷静さと、感情をむき出しにした時の暴れ方。その温度差が、佳樹をあっという間に有名にした。常連客たちは親しげに彼に声をかけ、テーブルを回るたびにカクテルをご馳走してくれた。
あまりに飲みっぷりのいい佳樹に奢る客は増え続け、一晩に20杯のカクテルを飲まされることもあった。佳樹はふらふらになりながら、それでもフロアで接客を続けた。(p.136)
佳樹は、ついに5人が揃ったことに感激していた。毎日会ってリハーサルをしているにも拘わらず、メンバーと離れ難くなり、翌朝まで飲んでしまうのだ。貸しスタジオの近くにある定食屋に入るたびに、佳樹は「俺にはもうひとつの家族ができた」と、呟いた。(p.176)
TOSHIと向きあったYOSHIKIは、完成された歌詞が書かれた紙を取り出し、単語ひとつひとつに込められた感情や秘められた意味をつぶさに解説していった。YOSHIKIの頭の中には、完成された「声」や「歌」がある。レコーディングは、彼の理想を再現するための作業だった。(p.256)
俺と関わった人間は、皆、壊れ、消えてしまう。
日本のロックを変えると意気込んだ熱狂が多くの人生を狂わせた。YOSHIKIはできることなら時間を遡り、過去の出会いのすべてを帳消しにしたいとさえ思っていた。
遠い昔、海に飛び込んだ瞬間やオートバイで疾走している時に感じた死への誘いを、なぜ受け入れなかったのか。YOSHIKIは気が遠くなるほどの後悔を覚えていた。
本来のシナリオでは死ぬのはHIDEじゃなかった。俺自身のはずだった。HIDEこそが生きて、先に逝く俺を見送るはずだった。(p.404)