半島を出よ (上)(下)
(村上龍/幻冬舎)
【コメント】
村上龍の小説は、エンターテイメントに徹している。
よく出来たエンターテイメントというのは、とにかく先が気になるので、途中で読み止められずについページをめくってしまう。
もし、北朝鮮軍が日本に上陸して、北九州を占拠したらどうなるか。実際にありえなくもなさそうな話しで、その設定からして惹きこまれる。
作品の完成度は、フィクションをいかにリアルに見せるかというところによっている。この小説も、とにかく人物設定や状況描写が緻密で、その情報量はフィクションであることを忘れさせてしまうくらいの膨大さだ。
【名言】
ノブエは、何か社会的常識のようなものに素直に従って生きている人間のほうがはるかに変だと思っていた。誰でもスギオカのように人を殺す可能性がある。スギオカのような人間がこの世にいるのは変だと信じきっているやつのほうがよほど変だ。人間はどんなことでもやる自由と可能性を持っているから本質的にひどく恐ろしい。(上巻p.26)
国民もメディアも主体的な外交という概念そのものが希薄だった。黒田も、北朝鮮か中国が日本を攻撃したら自動的に米軍が反撃してくれるのだろうと何となくそう思い込んでいた。日本の代わりに米軍が戦ってくれるような錯覚があった。考えてみれば、そんなお人よしの国があるわけがない。(下巻p.184)
四人は、酒ではなくウーロン茶やポカリスエットを飲みながら、何も話さずにただソファに座っている。煙草を吸うわけでもないし、音楽を聞くわけでもないし、テレビや雑誌を見ているわけでもない。世間の常識からすると、決して楽しそうに見えない。だがこれもタテノという人に教えてもらったのだが、楽しいというのは仲間と大騒ぎしたり冗談を言い合ったりすることではないらしい。大切だと思える人と、ただ時間をともに過ごすことなのだそうだ。(下巻p.493)