自分のなかに歴史をよむ


自分のなかに歴史をよむ(阿部謹也/筑摩書房)

前半は、著者が学問を志すにいたった経緯を語ったエッセイの形になっていて、後半は、専門であるドイツ中世史から、ヨーロッパの歴史を考えるという内容になっている。
何故、ヨーロッパは日本の文化とは異なる種類の文化を成立させたか、ということを考える時、多くの歴史書では「産業革命が起こった」ということを理由に説明がされることが多いけれど、この本では、そこにとどまらずに、「それでは何故、ヨーロッパで産業革命が起こったのか」という、一段階先に進んだところを考えている。
中世ヨーロッパというものを考える時、その当時に生きていた人々は「大宇宙(マクロコスモス)」と「小宇宙(ミクロコスモス)」とを意識しながら生活していた、という世界観は、かなり面白かった。
そこから展開して、なぜ被差別民が誕生したかということや、なぜキリスト教の普及によって東洋の文化と違う発展の仕方をしたのか、ということが、独自の視点から解釈されている。
歴史の本流部分を教科書的に説明しているのではなくて、中心的な出来事からは外れたところにある傍流の出来事に焦点をあてているところが斬新で、西洋史の面白さがよくわかる本だった。
【名言】
火は聖なるものとして、人びとの共有物でもありましたが、それ自体は大宇宙のモノとして恐れられていたのです。現在私たちが火の用心をしているその心理の底には、かつて大宇宙のモノであった火に対する畏怖があるといってもよいでしょう。私たちが火を扱うときの態度の底に、古代や中世が息づいているのです。(p.120)
日本では、国家や都市は宗教色が薄いと感じられています。むしろ特定の宗教と関係をもたないほうが良いとされています。このころのヨーロッパに成立した都市も国家も、終局的には個々人が死後天国に行けるように配慮すべき機関としての性格をあわせもっていたのです。完全な世俗国家ではなく、なかば宗教的な制度としての都市や国家が生まれたのです。(p.144)