国家の品格(藤原正彦/新潮社)
自分はもともと日本という国が大好きだけれど、この本を読んで、ますます日本という国が好きになった。
自由経済、民主主義、グローバル化。
戦後の日本で生まれた自分たちは、こういう概念を自然に受け容れ、正しいものであるように思って育ってきている。
でも、元をたどればこれらはアメリカにとって有利な価値観であって、歴史的に見てもごく新しいもので、人類にとって普遍的な真実というわけではない。
その概念を日本が受け容れることで、経済は発展したけれども、代わりに、日本人が長い時間をかけて作ってきた「情緒」や「形」はかなり失われてしまった。
「江戸時代、会津藩に日新館という藩校がありました。ここに入る前の子弟に対する掟にはこう書いてあります。
一つ、年長者の言うことに背いてはなりませぬ
二つ、年長者にはお辞儀をしなければなりませぬ
三つ、虚言を言うことはなりませぬ
・・・以下、七か条まで続き、その後はこんな文句で結ばれます。
『ならぬことはならぬものです』」(p.48)
論理を重視する教育、というのも戦後になって欧米の影響で入ったものだ。それ以前は「悪いことは悪い」で終わりで、要するに問答無用だった。
本当に重要なことの多くは、論理では説明出来ないから、親や先生が幼いうちから押しつけなければいけない。もちろん子供は、反発したり、後になって別の新しい価値観を見出すかもしれないけれど、それはそれでよい。
初めに何かの基準を与えないと、子供としては身動きが取れないからだ。
「国家の品格というのは、それ自体が防衛力でもあります」(p.178)
日本が開国した当時、イギリスにせよアメリカにせよ、本気で日本を植民地化しようと思えばおそらく出来た。
しかし、イギリス人は江戸の町で町人の多くが本を読み書きする姿を見て、「この国はとても植民地には出来ない」と諦めたという。
全体を植民地化するには国土が大きすぎた中国と、地理的な幸運に恵まれたタイを除いて、他のすべてのアジアの国がどこかの国の植民地となった時、日本は軍事力ではなく、文化と精神力によって侵略を退けた。
「日本の常識は世界の非常識」などと言って、日本がグローバルスタンダードから離れていることを嘆く人もいるけれど、自分は、日本が独自の文化と歴史を積み重ねてきた国であることに誇りを持っている。