「蜷川幸雄シェイクスピア・シリーズ」という連作のうち、この「オセロー」はその18作目になるらしい。
セットや衣装が、中世ヴェネチアの雰囲気をとても上手く表現していて、空間の臨場感は抜群だった。客席からキャストが登場するシーンが何度かあり、それを最初に見た時には、ちょっと変わった演出を加えた作品なのかと思ったけれど、全体的には極めてまっとうで、奇をてらうような演出はほとんどなかった。
「オセロー」というのは、悲劇の構造を極端にシンプルにして、その純粋なエッセンスを取り出したような物語だと思う。
坂口安吾は、「日本文化史観」の中で、「今日の日本人は、あらゆる国民の中で、最も憎悪心が少ない国民の一つだ」と言っていたけれど、確かに、オセローやイアーゴーのような強い感情の発露というのは、激しすぎて、なかなか共感しにくい気がする。
オセローを演じた吉田鋼太郎は、表情や話し方がコミカルな印象で、笑いを誘うようなところがあり、ちょっと違和感があったのだけれど、そういうキャラクターのほうが、観客にとっては感情移入しやすいのかも知れない。
デズデモーナ役の蒼井優は、よく通るいい声をしていて、舞台の上でもとても映える女優だと思った。ダントツで存在感があり、ハマり役だと思ったのは、イアーゴー役の高橋洋という人。
上演時間は全部で3時間50分で、随分と長い。独自のシーンを追加することもカットすることもなく、少しの意訳もすることさえなく、原作そのままの脚本で、その意味ではとてもストイックな作品だった。
会場:彩の国さいたま芸術劇場大ホール
公演期間:2007/10/4(木)~10/21(日)※10/9,15休演