やっぱり、シルク・ドゥ・ソレイユはとんでもなくスゴい集団だと思った。ここまでエンターテイメントに徹している舞台芸術というのは、他に見たことがない。
パフォーマンス自体の技術も当然のように高いのだけれど、それに加えて、開演前から終演まで、間断なく何らかの仕掛けが回り続けて、決して飽きさせないようになっている構成そのものが芸術的な出来栄えだと思った。
5年前に観た「キダム」とはちょっと趣向が変わっていて、「キダム」はかなりオリジナルな世界観がベースになっていて、内容的にもアッと驚くような演目があったのだけれど、この「ZED」は、一般に馴染みが深いジャグリングや綱渡り、空中ブランコのような演目が中心になっていて、よりサーカスらしい作りになっていると思った。
特に好きだった演目は、組体操のように人の上に人が立ったり、人の手をトランポリンのようにして跳ねる「バンキン」と、一本のロープの上ですれ違ったりバク宙したりする「綱渡り」だった。
綱渡りのところでだけ、パフォーマーに命綱が付いていたので、何でだろうと思っていたら、観客の真上を通過する時だけは、観客に危険が及ぶ可能性があるので、ヒモを付けているようなのだった。同じ理由で、綱渡りで使うバランスを取るための棒にも、もし落ちた時にどこに飛ぶかわからないので、ヒモが付いていた。
それ以外のところでは、どんなに危険な場面でもセーフティーネットは用意されていない。サーカスだからそういうものなのだろうけれど、あの、危険と隣り合わせのパフォーマンスをリアルタイムに演じているというのは、観ている自分までがやたらと緊張する。これだけは、映画では実現出来ない、ステージのみが持つ臨場感だろうと思う。
ピエロがしゃべっている、英語でもフランス語でもない言葉は、いったい何語なんだろうと思っていたら、地球上の言語ではないのだという。クリンゴン語やゼビ語のような、完全オリジナルの言語であるらしい。
ステージ上のところどころに表れる文字も、「ZED字」とでもいうべき創作文字。一つのステージのために、ここまでゼロから世界を創り上げるというのは、途方もないこだわりだと思う。
演奏が生演奏だから出来ることなのだろうけれど、たとえ多少のミスがあってリズムがズレたとしても、最終的にぴったり動きと音楽が重なるように調整されるというのは見事だと思った。
「ZED」の曲は、パーカッションを多用した打楽器のリズムがメインで、とてもノリが良いアッパー系の曲が多い。空中ブランコでは、パフォーマーたち自身が奇声をあげてやたらテンションが高いのが笑えた。そういうところも含めて、演目が進むにつれて観客も参加しているという一体感を感じられる、素晴らしい雰囲気作りだった。