上野の西洋美術館で、2008年1月6日まで「ムンク展」が開催されている。
ムンクは、一作一作の絵を個別に描くよりも、一つのテーマにそって、壁自体をも利用した連作の形でよく作品を作っていて、この展覧会では、その複数の作品がまとまった形での展示にこだわりを出していた。
絵というのは、時間が経つほどに、どうしてもバラバラになって散逸してしまう運命にあるけれど、ミュージシャンが、時には個々の楽曲以上に「アルバム」というまとまりを重要視するように、画家の中にも、複数の絵による世界観を大事に持っている場合は多くあるだろうと思う。
複数の絵を組み合わせた表現というのは、その組み合わせの自由さによって、単体の絵よりもはるかに多くの情報を入れ込むことが出来る。
「叫び」はなかったものの、それとよく似た構図とモチーフを持った、「不安」と「絶望」が展示されていた。これも、この3枚の絵をまとめて見比べることによって、それぞれの絵だけでは気づかなかったものが見えてくる組み合わせだ。
一番気に入った絵は「死臭」という絵だった。(まったく有名な作品ではないので、ネットで画像検索してもさっぱりヒットしなかった。)
空っぽのベッドのあるがらんとした部屋に、何人かの人が詰め掛けて、みんなが鼻をおさえて「ん?何か変なにおいがするな?」という顔をしている。
ただ一人、その人々の真ん中に立っている青白い顔をした老婆だけが、何もせずにじっとうつむいている。つまりこの人は、既に死んでいるのだ。
絵の右半分には人々が集まっているのに、左半分には何もないからっぽの空間が、バランス悪くがらんと広がっている。同じ絵の中なのに、此方と彼方ではとてつもない距離があるように感じられる。ものすごい絵だと思った。
「ムンク展」
http://www.tokyo-np.co.jp/event/bi/munch/
開催会場:国立西洋美術館(上野公園内)
開催期間:~2008年1月6日(日)
開館時間:9時30分~17時30分(毎週金曜日は20時まで)
休館日:月曜休館(ただし12月24日は開館)、12/28(金)~1/1(火)