世界を信じるためのメソッド

世界を信じるためのメソッド (よりみちパン!セ)
世界を信じるためのメソッド(森達也/理論社)

あらゆるメディアというのは、宿命的に必ず編集者の主観が入るので、どうしても中立ということはあり得ない。しかし、そのことを理解してテレビ見るのと、理解せずにテレビを見るのでは、まったくその受け止め方が違ってくる。
マスメディアというものが存在しなかった時代には、そこまでメディアというものの影響力を考える必要はなかった。しかし、マスメディアが人類に与えられてからまだ日が浅いにもかかわらず、ごく日常的に、中立性を欠いたメディアによって大きく世論が左右されてしまう現象はいくらでも起こってきた。そしてその編集操作は、常に目に見えない部分でおこなわれているので、その映像や音声がオリジナルそのものではなく、編集されたものだということが、非常にわかりづらくなっている。
その、裏側の仕組みを、実際に裏側にいた人間である筆者の手により語られているこの本のメッセージは、とても重要な示唆に満ちている。
子供向き図書という位置づけなので、文体はかなり噛みくだいて、わかりやすい言葉で書かれてはいるけれど、内容が薄いということはまったくない。この本で書かれているテーマはとても本質的で、子供よりも先に、大人こそが理解していなければいけないことなのだと思った。
【名言】
わかりやすさは大切だ。学校の授業だって、わかりづらいよりはわかりやすいほうが良いに決まっている。でもね、ここで大切なことは、僕たちが生きている今のこの世界は、そもそもとても複雑で、わかりづらいということだ。その複雑さをそのまま伝えていたら、情報にはならない。(p.93)
確かにメディアは急速に進化した。僕たちは自分の部屋から一歩も出ることなく、世界のいろんなことを知ることが出来るようになった。でもここに考え違いがあった。メディアの量はかつてとは比べ物にならないくらいに増えたけれど、それを受け取る人の時間は、一日24時間で昔と変わらない。だからメディアは、いろんな現象や事件を、効率のよう情報にまとめだした。つまり、簡略化。この過程で、いろんな地域、国、組織に属する人たちが、またステレオタイプに押し込まれた。(p.143)