カフカ短篇集(カフカ/岩波書店)
意味がよくわからない短編が多くて、おとぎ話しのような教訓が感じられるものもあれば、そういうものがまったく見当たらない、オチの意味が皆目わからない話しもある。
全20編の短編の長さはかなりまちまちで、50ページぐらいの長めの話しがあったり、1ページで完結してしまうものもあったりするのだけれど、短くまとまったものほどシンプルでひねりがきいていて面白いと思う話しが多かった。
「掟の門」
「橋」
「プロメテウス」
の3つが良かった。いずれも1~4ページ程度の、極端に短い短編だ。
特に、「掟の門」は、実に様々なことを考えさせられる。
要点だけを抜き出しても、響いてくるものがある。
・門には門番がいて「今はたぶんダメだから後にしろ」と門番は言う。
・門はどうしても通れないというわけではない。
・ただし、見るからに強そうな門番を倒さなければいけないらしい。
・最初の門を過ぎても、順番にどんどん強力な門番が現れるらしい。
・永い年月の間に、その最初の門番のこと以外は考えられなくなった。
・門が開くのを待ち続けたまま、ついに男は息絶えてしまう。
・その門は誰でも通れるものではなく、その男のためだけのものだった。
そこから何を感じて、何を教訓とするかという解釈は人それぞれというところが、この種類の短編の良さだと思う。
【名言】
「誰もが掟を求めているというのに」
と、男は言った。
「この永い年月のあいだ、どうして私以外の誰ひとり、中に入れてくれといって来なかったのです?」
いのちの火が消えかけていた。うすれていく意識を呼びもどすかのように門番がどなった。
「ほかの誰ひとり、ここには入れない。この門は、おまえひとりのためのものだった。さあ、もうおれは行く。ここを閉めるぞ」(p.12)「掟の門」
この先、いったい、どうなることやら。かいのないことながら、ついつい思案にふけるのだ。あやつは、はたして、死ぬことができるのだろうか?死ぬものはみな、生きているあいだに目的をもち、だからこそあくせくして、いのちをすりへらす。オドラデクはそうではない。いつの日か私の孫子の代に、糸くずをひきずりながら階段をころげおちたりしているのではなかろうか?誰の害になるわけでもなさそうだが、しかし、自分が死んだあともあいつが生きていると思うと、胸をしめつけられるここちがする。(p.105)「父の気がかり」
ところで人魚たちは、歌よりもはるかに強力な武器をもっていた。つまり、沈黙である。たしかにこれまであったためしはないにせよ、彼女たちの歌声から身を守れないことはなさそうだ。しかし、沈黙にはとうていだめである。自力で人魚に打ち勝ったという感情と、そのあとにこみあげてくる昂然とした気持には、誰であれ手もなくやられてしまうものだから。(p.228)「人魚の沈黙」
ソーシャルブックシェルフ「リーブル」の読書日記