「星の王子さま」を原作にしたミュージカル、「リトルプリンス」を観た。
一昨年の11月に上演された時も、相当なクオリティーの高さと思ったけれど、今回はキャストが一新されて、より一層、素晴らしい出来になっていた。
「星の王子さま」の物語の中にある、たくさんの名場面の中で、とりわけ好きなのは、王子とキツネとの交流のシーンだ。初めはまったくの他人同士で、何の関わりもなかった二人が、徐々に距離を縮めていって、お互いがお互いを唯一無二の存在として認めるようになる。
この舞台では、そのシーンが特に良く出来ている。だんだんとお互いの存在が近くなって、息が合ってきて、動きや感情までもがシンクロしていく感じ。この空気は、舞台以外では伝わらない感覚だと思う。
「星の王子さま」の原作は、意外に淡々としていて、そっけない。わくわくしたり、楽しんで読むような種類の物語ではなく、サンテグジュペリのほのぼのした挿絵にひかれて読むと、予想していた感じと違った、ということになる。
この、ミュージカルの舞台では、原作のメッセージはそのまま残しつつ、エンターテイメントの要素がかなり豊富に加えられているので、小説よりもはるかに面白く、印象に深く残る形になっている。
東京公演は2月24日(日)で終わってしまうので、それ以降の公演は、全国公演になる。(東京近郊では、5月31日(土)と6月1日(日)に相模大野での公演あり)
もし、自宅の近くで公演があるようだったら、ぜひ一生に一度は、この作品を観てみてほしいと思う。
「リトルプリンス」作品紹介ページ
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もう一つ、特に好きなシーンを、小説の中から。
星の王子さま(サンテグジュペリ/池澤夏樹訳/集英社)
王子さまはもういちど庭園のバラを見に行った。
「きみたちはぼくのバラとはぜんぜん似てないよ。きみたちはまだ何でもない」と王子さまは言った。
「誰もきみたちを飼い慣らしていないし、きみたちだって誰も飼い慣らしていないからね。きみたちは以前のキツネに似ている。前は10万匹のキツネたちのどれとも違わないただのキツネだった。でもぼくたちは友だちになったし、今では彼は世界でただ1匹のキツネだ」
バラたちはみな当惑していた。
「きみたちはきれいさ。でも空っぽだよ」と彼は続けた。「誰もきみたちのためには死ねない。もちろん、通りすがちの人はぼくのあのバラを見て、きみたちと同じだと考えるだろう。でも、あれはきみたちをぜんぶ合わせたよりもっと大事だ。なぜって、ぼくが水をやったのは他ならぬあの花だから。ぼくがガラスの鉢をかぶせてやったのはあの花だから。ついたてを立ててやったのはあの花だから。毛虫を退治してやったのはあの花だから。愚痴を言ったり、自慢したり、黙っちゃったりするのを聞いてやったのは、あの花だから。なぜって、あれがぼくの花だから。」(p.102)