チルドレン

チルドレン (講談社文庫 (い111-1))
チルドレン(伊坂幸太郎/講談社)

伊坂幸太郎の本には、短編集の形をとりながら、実際には一続きの連作になっているという作品がいくつかある。この「チルドレン」は、陣内という人物が登場することを共通項とした、5つの短編集だ。
その5つは、時系列もバラバラだし、舞台もまったく違うしで、一見、別々の話しの寄せ集めのように見える。しかし、お互いの短編を照らし合わせてみると、あちこちでリンクしている部分があって、たとえば、ある話しの中で出てくる曲の名前が、その短編中では明かされず、他の短編で明らかになったりする。
その、短編同士のゆるやかなつながりに用意されたリンクを探して、頭の中で組み合わせていくところに、作品そのものとは別の遊びが隠されている。そこには、ごちゃごちゃに入れ替えられたルービックキューブを元に戻していくような楽しさがあるのだと思う。
登場人物の言い回しには、現実離れした雰囲気があって、あまりリアリティーは感じられないのだけれど、それが、ごく身近な場所を舞台として繰り広げられることで、日常感と非日常感が合わさったような、絶妙な空気が作り出されている。
この、日常と非日常、だけではなく、常識と非常識、ベタさと意外さ、のような相反する要素がバランス良く配合されている、繊細な工芸品のような作品だった。