大統領特赦 上下巻(ジョン・グリシャム/新潮社)
CIAの陰謀によって世界各国の諜報機関に追われる男の逃亡劇、という、けっこうベタなストーリー。そのサスペンス的な部分も結構ベタで、驚いたりハラハラするような展開はまったくなかったのだけれど、主人公のバックマンが、イタリアのボローニャに潜伏するくだりが、かなり面白かった。
バックマンは、自分がどこにいるのかも知らされず、もちろんイタリア語もまったく話せないという状態で、いきなりボローニャでの生活を強いられる。ほとんど「電波少年」の企画に近い。
そこで、なんとか自分を監視している連中を出し抜いて脱出するために、もう老年に達しようという男が、イタリア語を勉強して、イタリアの風習を学んで、、と、必至に猛勉強を始める。これが、なんとも感動的な姿なのだ。
自分が世界各国の諜報機関に追われる図は想像出来ないけれども、自分が突然、見知らぬ国で生活を始めなければいけないという状況は、もしかしたら将来あり得る。その時に自分だったらどうするか?を想像しながら読むと、これは一層興味深い。
サスペンスものとしてはさっぱりなのだけど、全然本筋と関係ないところで、非常に面白い小説だった。
【名言】
クレイバーンは世界に超大国がふたつしかなかった往時は、いかに人生が単純なものですんでいたことか、と思い出話を口にした。われわれの敵はソヴィエトだと決まっていたよ。(上巻p.299)