世界経済危機 日本の罪と罰


世界経済危機 日本の罪と罰(野口悠紀雄/ダイヤモンド社)

円高・原油価格高騰・アメリカ経済の凋落、など、最新の経済トピックについて分析をした本。とにかく、情報が雑誌並みに新しいことに驚く。2008年12月初旬に出版されているにもかかわらず、11月時点のデータを元にそれぞれの論点が整理されていて、これだけの範囲の記事をいったいいつまとめているんだと感動するタイムリーさだ。
この「罪と罰」というタイトルには、アメリカのサブプライムローンの問題は対岸の火事ではなく、日本が共犯者として、その発生に大きな責任があるという意味が込められているらしい。
今、あらゆる経済学者が本を出していて、言っていることというのは、その表現の仕方においてはまちまちだけれども、いずれも、「経済不況はこんなものでは済まない」といっている点では共通している。
この本は、専門用語について、本当にキーワードとなるところ以外は説明が省かれているという難しさはあるけれど、その分、余計な言葉を使わずにシンプルに解説がされているという読みやすさがあって、ものすごくわかりやすかった。
主張自体に、感情論がまったく入らず、すべてについてデータオリエンティッドな組み立て方をしているというところも好きだ。
特に、食料価格高騰への対策として、食料自給率を引き上げる政策がまったく的外れということについての説明は、徹頭徹尾、筋が通っていて、非常に納得がいった。
著者の野口氏は、「超整理法」シリーズで有名だけれど、そちらの著書についてはまったく触れず、著者経歴でも経済関連の書籍にのみ言及されていて、けじめをしっかりつけているところは好感がもてる。
結局、今の状況下では、何に投資するのが最もいいのかという結論部分で、「今は金融資産への投資でリスクを取るときとは考えられない。若い人は、自分自身への教育投資を行なうべきだ」という結びは良かった。
この本からの情報のみをそのまま鵜呑みにするわけにはいかないけれど、世界経済の現状について概観する手がかりとして、とても優れた手引き書だった。他の経済書を併せて読む時に、この本のお陰でかなり理解がしやすくなる気がする。
【名言】
「プライシング」(価格付け)理論は、ファイナンス理論の中核である。しかし、「実務と関係がない机上の空論」と考えている人が多い。そして、実務では、証券化された金融商品の価値評価を、プライシング理論を活用して行なうのではなく、格付け機関による「格付け」に依存していた。いわば、評価を「他人任せ」にしていたわけである。(p.73)
日本の問題は「貪欲さ」ではなく、「賢さの欠如」である。「日本はアメリカの投資銀行のような貪欲さを持っていなかった。だから、悪いのはアメリカだ」という意見が日本では強くように見受けられる。たしかに、貪欲は罪である。しかし、知識がなく賢さに欠けることも、同じように罪なのである。(p.89)
金融資本主義や投資銀行を批判するのはよい。しかし、知恵がある人に対抗するには、こちらも知恵を持つ必要がある。そうでないと、いいように利用されてしまう。生産現場が強いのもよい。しかし、財務部門も強くなくては困るのである。そうでないと、工場が稼いだ金を、知らない間にとられてしまう。(p.149)
特に重要なのは、食料の多くは保存できるにしてもコストがかかり、品質が劣化するため、投機の対象にはしにくいという事実である。これは、金や石油とは大きく異なる性質だ。したがって、マネーゲームだけで食料価格は高騰しない。高騰の基本的な原因は、実需の増加である。(p.170)
食料価格の上昇は、貧困国にとって最も過酷な問題となる。食料問題とは、全世界的な絶対量の不足の問題ではなく、分配問題なのだ。(p.174)