日本の歴史をよみなおす


日本の歴史をよみなおす(網野善彦/筑摩書房)

中学・高校の教科書で習った事を根底からくつがえすような話題がいっぱいで、かなり日本史観を変えさせられた本だった。もうほとんど全編が、これまで常識とされてきたことと違う視点からの語り口と言っていい。
たとえば、
・江戸時代まで、女性の権利はかなり制限されて抑圧されていたものとされていたが、実際にはかなりの自由があった。
・百姓といえば農民のことという固定観念があるが、実際には漁や商業に従事していた人など、様々な職業をさしていた。
・鎌倉時代は、武士の時代として天皇不執政の時代といわれたが、実際にはその当時も、京では強い権力を持っていた
などなど。
この本は、「穢れ」の概念や、「天皇制」「女性の権利」「農業以外の視点からの日本経済」など、従来の日本史学では触れることを避けてきたテーマについて、かなり深く切り込んでいっている内容だと思った。
それだけに、どの章の話題もとても斬新で、今まで教科書に書いてあったことをそのまま鵜呑みにしてきた内容を一度疑って、すべて一から自分の頭で考え直してみることが重要なのだということを教えてくれた本だった。
【名言】
従来、江戸時代は家父長制が確立しており、女性は無権利できびしく抑圧されていたと考えられていたのですが、実態はかなりちがっていたといわなくてはなりません。さらにさかのぼって14世紀以前の女性のあり方を史料にそくして見てみますと、女性たちは江戸時代よりもはるかに広い社会的な活動をしていたことがはっきりとわかります。(p.157)
戦後の歴史学が、戦前、戦中の皇国史観に対する反発もあって、鎌倉時代になると、教科書にはほとんど武士の歴史しか書いていないのです。たしかに皇国史観に対抗するために、在地領主、武士の果たした役割を強調したことには明らかに大きな意味があったのですが、これが裏目に出て、鎌倉時代以降の天皇、公家側の歴史の研究に、ブランクができた時期がありました。
いまでも教科書の叙述は、後鳥羽天皇が承久の乱で幕府に負けたあとの天皇は、後醍醐まではでてこないのです。ところが、じつは鎌倉時代の天皇、上皇は、王朝国家の中ではあきらかに権力を持っています。(p.208)
現代を歴史的な時代区分の中でどこに位置づけるかということですが、社会構成史的な次元での区分、古代・中世・近世・近代という区分の中で、現代を明治以降の近代の連続と考えるか、戦後に新たに出発した、近代社会とは異なる現代社会と位置づけるかによって、当然、現代に対する認識は大きく変わってくるわけです。
戦後歴史学の主流は、敗戦と新憲法に非常に大きな比重を与えており、どちらかといえば後者の見方が主流だと思うのですが、私は多少戦前を知っているせいかもしれませんが、現代は明治以降の近代社会のある一段階であり、現在はその、局面ととらえたほうがよいのではないかと思っています。(p,219)
現代は社会構成史的にも、また民族史的、文明史的にも、大きな転換期にはいっていることになるので、天皇も否応なしにこの転換期に直面していることになります。おそらくこの二つの転換期をこえる過程で、日本人の意志によって、天皇が消える条件は、そう遠からず生まれるといってよいと思います。
しかしその時は、必ずや日本という国号自体をわれわれが再検討する時期となるに相違ありません。それはいわば「日本」という国家そのものをわれわれが正面から問題にする時期になるのだと思います。(p.221)