時生


時生(東野圭吾/講談社)

東野圭吾氏にしては珍しく、ミステリーの色合いはあまり濃くない。
あえてジャンル分けするとすれば、「家族系タイムスリップ型SF」ということになるだろうと思う。それと同じジャンルに含まれそうな、重松清氏の「流星ワゴン」に、物語の空気や、登場する親子の距離感が、とてもよく似ていると思った。
かなり長い話しなのだけれど、中盤では、本筋と関係ないような部分が続き、「これは、途中の部分、ほとんど要らないんじゃないか?」という気もする。設定としても、「バックトゥーザフューチャー」からあるような、いっそ古典的と言っていいようなパターンで、あまり目新しい感じはしない。
東野圭吾氏の作品にはたいがい、どこかで驚かされるのだけれど、それを期待しすぎたためか、この作品ではあまり意外性を感じるところはなかった。その点では、凝ったひねりはほとんど無く、ちょっと物足りない感じはしたものの、それでも構成や文章がとても上手いために、最後にはきちんと余韻を残して、見事にまとまってしまうところはさすがだ。
【名言】
たしかなのは、こいつと一緒にいれば、自分が少しずつだが変わっていけるということだ。もちろんまともな人間に、だ。それだけで十分じゃないか。(p.485)