The Book


The Book(乙一/集英社)

「ジョジョ」の第四部の舞台である杜王町で起こる事件をテーマにした、アナザーストーリーともいうべきスピンアウト小説。乙一がノベライズしているという、変わった組み合わせに興味を惹かれた。第三部と第五部が既に小説化された後の発行だったけれど、第四部の物語が展開した杜王町という町は、作品の中で様々なトリビアが数多く出ている上に、とてもミステリアスな雰囲気に満ちていて、小説化するには最適な舞台だろうと思う。
あまり本編からの登場人物が多くないので、本編とリンクしている感じはそれほど感じない。単行本で少しだけ出てきて、思わせぶりなキャラクターでありながら結局何の伏線にもなっていなかったという、「仗助が4歳の時、大雪の中で助けてくれた謎の高校生」がこの小説の中で再活用されるというのは斬新だった。
やはり、ジョジョは絵があってこそ、というところがあって、たまに挿絵はあるものの、基本的には普通の小説なので、あまりジョジョらしさが発揮されている内容ではなかったのが、期待はずれなところだった。
しかし、「The Book」というタイトルが示すように「本」ということに関してのコンセプトは非常によく出来ていて、装丁やロゴから、細かいところまでオリジナルな一つの世界を作り上げようとしたこだわりはとてもよく伝わってくる。
【名言】
「娘が一人いた。二十年ちかく前に失踪している。その人は、結局、もどってこなかった。ある日、忽然と、煙のように消えてしまった。よくある話だ。とくに杜王町ではね。知ってるか、この町、行方不明者が多いんだ。そういう統計データがのこっている。1999年にはいってからの行方不明者は81人。うち45人が少年少女だ。まるで杜王町自身が、建物の陰で人間をひとりずつ食ってるんじゃないかって思う。そんな数字だろ」(p.49)
「・・しかし、奇妙なものだな。破壊と、再生か。両方同時にもっているなんて、危ういバランスだ。きみの性格がそうだからなのか?きみの精神には、分裂気味なところがあるんじゃないか?うわさに聞いたことがあるぞ。普段は温厚なやつだが、ブチギレすると態度が豹変するんだってな」(p.320)
『千夜一夜物語』に登場する少女は、毎晩、物語を王に語ることで処刑を回避した。最終的に王は、少女の語る物語によって寛容さと倫理観を得た。処刑はとりやめになり、王と少女は結婚し、子供をもうけたという。ストーリーには、人間を生かし、発展させる力があるのだ。東方仗助へ反撃する前にやらなくてはいけないことがあった。それはストーリーを語ることである。『千夜一夜物語』のように、命をかけて語らねばならない。(p.330)