φは壊れたね


φは壊れたね(森博嗣/講談社)

いつもながらの密室殺人という設定に加えて、今回は、芸術作品であるかのような造形で殺害されたアーティスティックな死体、という、もう一つトリッキーな要素が足されている。
犀川教授と西之園萌絵が主人公の「S&M」シリーズから少し時間が経過した時点という設定で、大学院へと進学した西之園萌絵が登場するばかりでなく、名前だけではあるけれども、犀川教授も作品の中に時々登場するのが面白い。
この小説では、各章の扉にヴィトゲンシュタインの『論理哲学論考』から引用した言葉が用いられていて、ギリシア文字の「φ(ファイ)」が示す意味と併せて、哲学的な雰囲気が流れている。
推理小説としては、その仕掛けの謎解きの部分よりも、この独特の雰囲気を楽しむことのほうに重点が置かれた作品だと思う。
旧作でいう犀川教授のポジションを担っている海月くんのキャラがちょっと弱いような気がするのだけれど、これからどういう展開になっていくのか、楽しみなシリーズ。
【名言】
主体は世界に属さない。それは世界の限界である(ヴィトゲンシュタイン)(p.7)
「φっていうのは、何に使う記号ですか?」鵜飼は西之園と国枝を見てきいた。
「決まっていません」西之園が答える。「よく使うというと、関数の名前かしら」
「空集合」国枝が珍しく口をきいた。(p.136)
「わかったわかった」加部谷は片手を広げ、溜息をつく。「こんなに沢山の海月君の声を聞けただけで疲れちゃったわよ。山吹さん、なにか言ってあげて下さいよ。はぁ、もう・・」
「こういうの、多いんだ」山吹は白い歯を見せて笑っている。「今まで何度こういう目に遭ったかしれないから、僕はすっかり学習してしまった」
「そう・・」西之園も目を丸くして海月を見ていた。「いるのね、同じ系列の人が・・」(p.275)

スポンサーリンク
レクタングル(大)広告
レクタングル(大)広告

フォローする

スポンサーリンク
レクタングル(大)広告