文体練習


文体練習(レーモン・クノー/朝日出版社)

これは、ものすごく面白い本だった。ある一つの、何の変哲もない文章を、99通りの文体で表現するという、バカバカしいことに大真面目に取り込んだ作品。
単に文体を変えただけのものもあれば、物語の話者を変えたもの(話者が「帽子」になることもある)、演劇風にしてしまったもの、数学的に記述したもの、など実に様々な実験をおこなっている。
一つの出来事を表現するのに、こんなにも多様な方法があるという自由さに、まず感動させられる。そして、同じ出来事の表現でも、視点や手法が違えばまったく異なる印象を読者に与えるのだということにも、驚かされた。
単純な一つのメモを素材としてすら、ここまで豊富なバリエーションが生み出せるのだから、世の中の出来事の記述ということでいえば、それこそ、言葉には無限の可能性があるのだということを教えてくれた作品だった。
原文で読むことが出来れば、さらにずっと面白いに違いないのだけれど、原書で内容を理解出来ないのが残念だ。それでも、これだけ原文に忠実になるように工夫を凝らして日本語に意訳した、翻訳者の人はすごいと思う。
装丁にも凝っている分、値段が高いのが難点で、文庫化されて廉価版が出てさえいれば、たくさんの人におススメをしたいと思う本。
【特に好きだった文体】
5・遡行
11・以下の単語を順に用いて文章を作れ
12・ためらい
14・主観的な立場から
15・別の主観性
19・アニミズム
43・尋問
44・コメディー
52・偏った見方
59・電報
64・集合論
74・品詞ごとに分類せよ
80・さかさま
【名言】
いったいそれがどこだったのか、よく覚えていないのですが・・教会だったか、ごみ箱だったか、納骨場だったか?ええと、多分、バスの中だったような?そこに何かがあって・・ええと、でも、何があったのでしょう?卵?絨毯?大根?それとも、骸骨?そう、たくさんの骸骨です。ただ・・骨のまわりには肉もあって、生きていたような・・多分そうだったんじゃないかと思います。つまり、バスの中にいる人々。そのなかに一人(それとも二人?)、何やら目立つ乗客がいて、でも、なぜ目立っていたのやら・・誇大妄想?脂肪太り?憂鬱症?そうですねえ・・もう少し正確に言えば・・何かこう、若さ、しかも、ひょろ長い・・長かったのは何だったかと言うと・・鼻?顎?親指?いや、首です。(12・ためらい)(p.14)
その男は相乗り乗客に「ぐい押しわざ突きしないで欲しい」と言ったあと、あわて飛んで席取り走った。あとときの別所で、わたしはその小癪者が知らず人といっしょに、サン=ラザっているのを見た。(17・合成語)(p.20)
いかれぽんちの集合をZとし、ZとC’の共通部分を考えれば、その元はただひとつであり、{z}という形であらわされる。このzの足のうえに、y(zとは異なるC’の任意の元)の足を全射することにより、元zが発したことばの集合Mを導くことができる。(64・集合論)(p.89)

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