歴史の世界から(司馬遼太郎/中央公論社)
色々な雑誌に掲載されたエッセイを集めたもので、その年代は昭和35年から55年くらいまで、とても長いので、テーマはかなりまちまちになっている。大きく、「歴史」について語ったものと「人物」について語ったものの2種類に分かれていて、やはり、「歴史」を扱ったエッセイのほうが、独特の味があって楽しい。
時事的な話題も入っているので、今となってはもう時代が昔すぎてよくわからない話しもたくさんあるけれど、それはそれで、当時の空気が伝わってきて面白い。
それにしても、この、司馬遼太郎という人は、どれだけたくさんの文章を遺しているのかと、今さらながら驚かされる。小説自体の数も多いけれども、それとは別に、「この国のかたち」や「司馬遼太郎が考えたこと」のようなエッセイ的な本も数えきれないほどたくさんある。手塚治虫やピカソのように、多作で活動的な人だったのだと思う。
【名言】
信長は、その長所においては秀吉などの水準からはるかに屹立する天才でありました。
が、それだけに欠点の谷もふかい。
秀吉は知っていた。
その天才を学び、その谷を埋めようとした点に、秀吉のうまみがあります。(p.57)
植物の多くは、群落の性質がある。おなじ科の植物が、おなじ場所でそろって繁殖するものだ。人物の場合もかわらない。人物も群落する。明治以降の文壇史や画壇史をみればわかる。おなじ同人雑誌や画家仲間から、そろって成長し、群落する。信長、秀吉、家康の場合がそうだ。(p.65)