好き好き大好き超愛してる(舞城王太郎/講談社)
ストーリーがあまりにぶっとんでて、意味不明なところも多々あるのだけれど、でも、びっくりするぐらいの文章の勢いがある。この表現力は天才的だと思う。
いくつもの物語が並行して流れていて、そのいずれの物語にも共通するテーマは「大切な人の死」ということで、何回も何回も繰り返し、それぞれの世界でそれぞれの大切な人が死んでいく。
この世には、今の現実とほんのわずかなズレをもって存在する無数のパラレルワールドがあるという説が、結構まっとうな宇宙物理学の理論としてあるらしいけれど、その中のどのワールドをとってみても、きっと「大切な人の死」という、最上級に哀しい事件は起こるのだろう。
どういうシチュエーションで死にゆくとしても、その死の間に優劣はなく「死は死」で、どれも等価値だ。そのことをとことんまで独特な手法で文学的に表現したのが、この作品なのだと思う。
【名言】
僕は約束のことを思い出す。生きる時間の長さが、一つの約束を反故にする。(p.102)
もちろん柿緒の死は僕が昨日食パンをかじったひと口目と僕の関心の惹きつけ方において同じではない。でも客観的な重要度では同じなのだ。トースターから出てきたばかりでマーガリンをさっと塗られたトーストの、指先に当たるミミの温かさ、柔らかさ、パン全体のしなやかさ、堅さ。湯気に混じるパンとマーガリンの香り、表面で溶けたマーガリンの艶、それらが僕に与える情報と柿緒の死が僕に与える情報の量は一緒なのだ。ただ僕がそれらに充分な注意を払っていないだけで、僕の生きるこの一瞬一瞬に僕に起こる一事一事が僕にとって全て等しいのだ。(p.166)