今回ご紹介するのは『仕事は楽しいかね?』(デイル・ドーテン著/野津智子訳/きこ書房)です。
この本は、2001年に発売されて以降、長いあいだ人気が続いていて、累計20万部以上が売れているベストセラーです。
吹雪によって閉鎖されてしまった空港に閉じ込められた主人公は、そこで偶然、風変わりな老人に出会いました。
空港で知り合ったばかりの小さい子供たちをカートに乗せて、本気で一緒になって遊んでいるような、陽気なおじいさんです。
その老人が息をきらせて、主人公の隣に腰をおろした時に、話しかけてきました。
知り合ったばかりの子供たちのことや、大して面白くないジョークをいくつか披露した後、「仕事は楽しいかね?」と聞いてきたのです。
主人公の打ち明け話
そう聞かれた主人公は、つい、老人に日頃の不満を打ち明けてしまいます。
勤続15年になる主人公は、まじめに週50時間働いていますが、給料も上がらず出世もできず、人生に退屈しています。
自己啓発書を買って、新しい夢を見つけようとしていますが、しかし、妻子を抱えて、住宅ローンのある身ではかなわない夢だと、どこかで諦めています。
その背景には、過去の失敗経験がありました。
大学を卒業した後、友達と3人でコピーサービスの店舗を立ち上げましたが、すぐ近くに同じようなサービスを提供するお店が出きたことで赤字となり、店を畳むことになったのです。
そのことで、貯金を使い果たしただけでなく、友人も夢も失って、思い出したくもないような苦い経験となりました。
老人の正体
知り合ったばかりの老人に、自分の不満をぶちまけたことを主人公は恥ずかしく思いましたが、老人はとても興味深そうに、話をじっと聞いています。
近くにいた人に教えてもらってわかったことですが、実はその老人は、マックス・エルモアという、億万長者の起業家だったのです。
マックスは、主人公に質問をします。
「君の考える、成功のための戦略を話してくれ」
主人公は、数多くの自己啓発書を読んできた経験から、次の2つのことが成功には欠かせないと思う、と話しました。
まず、目標を定めること。
目的地を知らなければそこに到達することはできないからです。
そして目標を持つことで、自分の人生が今どういう状態か、きちんと管理することができます。
2つめは、成功をした他人の行動をよく観察して、それを模範とすること。
わかりきっていることを手間暇かけてやり直すことはないのです。
主人公が語った、この2つの考え方を、マックスは大きな紙にマジックで書き留めました。
「これが君の、成功のための考え方をまとめたものかね?」
「そうです」
「わかった。よく見える場所に、この紙を貼っておきなさい。
ただ、渡す前にやっておきたいことがある」
そういってマックスは、紙に大きな×印をつけました。
試してみることに失敗はない
そして、新しい紙にこう書いたのです。
「試してみることに失敗はない」
目標を設定して、それに向かって努力することを私たちは学校で教えられてきましたが、マックスは、「人生はそんなに規則正しいものじゃない」と言います。
むしろ、規則から外れたところにこそ、いろいろな教訓があります。
目標を設定して、自己管理ができていると納得しているだけで、たとえ目標に到達しても満足感は得られません。
明日は今日と違う自分になる
「今日の目標は明日のマンネリだ」とマックスは言います。
多くの自己啓発書にかかれている、目標設定をすることの重要さを、マックスは真っ向から否定するのです。
マックスがこれまでに掲げた目標が一つだけあります。それは「明日は今日と違う自分になる」というものです。
これは簡単なことではなく、とんでもなく疲れる方法です。
しかも普通の目標とは違って、最終的にどこに行き着くかもわかりません。
だからこそワクワクする方法なのだと、マックスは熱を込めて話します。
世界的な成功を収めた発明者は、最初に目標を定めて計画どおりに事を進めていった人たちのように見えますが、実はそうではありません。
それは、「最初に陸にあがった魚が、長期にわたる進化の目標を持っていなかった」のと同じことです。
たとえばアップルコンピューターの第一号を作ったスティーブ・ウォズニアックは、世界を変えたかったわけでも億万長者になりたかったわけでもなく、自家製のコンピューターを友だちに見せたかったことが理由でした。
ただ遊び感覚でいろいろやって、成り行きを見守っていただけでしたが、結果的に億万長者になり、世界を変えました。
これは、確率の問題でもあります。
買わなければ宝くじが当たることはないように、手当たりしだいにいろいろやってチャンスの数を増やすことが成功の条件です。
たとえ、ずば抜けて優秀ではなくても、10回中10回失敗するものを、10回中9回失敗するぐらいに確率を上げることはできる、とマックスは言います。
そして、10回中1回は成功するのなら、試し続けることで、いずれは当たりをひくことになります。
成功の宝くじでは、勝つチャンスは数多く手に入りますし、そのほとんどは大損するようなものではありません。
マルキエルのコイン投げ競争
マルキエルのコイン投げ競争、という話をご存知でしょうか。
千人が一斉にコインを投げて、表が出れば勝ち、裏が出れば負けです。
1回コインを投げるごとに半分がいなくなっていき、7回投げ終わると、8人が残ります。
すると次に何が起きるかというと、彼らはコイン投げの天才だとみんなから褒めたたえられます。
チャンスの数が十分にあれば、誰でもコイン投げの天才になる可能性があります。
表を出し続けるコインの投げ手は、そこに至るまでに、繰り返し何度もコインを投げ続けているのです。
「空前のヒット商品」の多くは偶然の産物です。
たとえばコカ・コーラは、アトランタの薬屋の従業員が、頭痛薬のシロップを水で割って飲んでみたら美味しい、と気づいたことがきっかけで生まれました。
ジーンズのリーバイスは、カリフォルニアの鉱夫に、必要な道具を売ることで商売をしようと考えていましたが、持ってきた道具がすべて売り切れてしまい、手元に残っていた、テント用の丈夫な布を使ってオーバーオールを作ったことから始まりました。
成功を研究しても、成功は手に入らない
マックスは
「必要は発明の母かもしれないが、偶然は発明の父なんだ」と言います。
注意を払うことさえ始めれば、目に出来るあらゆるところに偶然が転がっていることがわかります。
大勢の人が計画の重要性を唱えていますが、本当は偶然のまぐれ当たりこそが、成功のための重要なポイントなのです。
主人公は、かつて自分が起業をしたことを、無残な失敗に終わった経験だととらえています。
しかし、マックスに言わせれば、まだ失敗といえるほどの段階にも至っていないということです。
そもそもビジネスの正攻法を参考にした時点で、誰もが考えつく似たりよったりのビジネスになり、いずれは価格競争の小競り合いになることは目に見えています。
「成功を研究しても、成功は手に入らない」というのが真実です。
それは、ピカソの絵をコピーして貼り付けても、ピカソにはなれないのと同じことです。
本当に成功した起業家というのは「右に倣え」をしなかった人たちなのです。
あるべき状態よりも、さらに良くなる
はっきりとした目標を思い描くと、それを達成した時点で動きが止まってしまいます。
重要なのは、あらゆるアイデアを試して、「あるべき状態よりも、さらに良くなる」ことです。
もし試してみた結果、ろくでもないアイデアだったとしても、元の場所に戻ることはなく、必ず何かしらの教訓を得た状態になります。
コカ・コーラやリーバイスの例が示すように、誰のもとにも優れたアイデアはやってくるかもしれませんが、しかし、ほとんどの人はそのアイデアを素通りさせてしまっています。
アイデアに気づくのは、常に何かを試し、変化をし続けようとしている人だけなのです。
と、いうことで、今回は「仕事は楽しいかね?」の内容をご紹介しました。
最後に、この本のキーワードをまとめて、終わりにしたいと思います。
まず、ありとあらゆることを試してみること。
そして、明日は今日とは違う自分になること。
興味を持った方は、ぜひ実際に読んでみてください。