パラレルワールド(ミチオカク/日本放送出版協会)
またまた、宇宙論のテーマでハンパなく面白い本が見つかった。
この本は三部構成になっていて、第一部は、現代までに発展してきた宇宙論のあらすじのまとめになっている。第二部がメインのテーマである、最新の宇宙理論としての、11次元論や、M理論についての解説。そして、第三部は、いつか消滅する運命にあるこの宇宙から、人類は果たして脱出することは可能かということについて検証をしている。
宇宙論の様々な仮説は、いずれもまだ推測の域を出ない空想的なものかと思っていたのだけれど、宇宙の始まりがビッグバンであったという「ビッグバン理論」というのは、今では多くのデータによって裏付けられた、かなり確かな根拠のある理論であるらしい。
堅苦しい理論や数式が並べられた本ではなく、宇宙論の面白さや、それに関わる人たちのエピソードがメインになっているので、とても読みやすい。本人自身がとても優れた学者であると同時に、これだけ説明が上手いという人はめったにいないんじゃないかと思う。
「叡智の海」が、著者の考える大胆な仮説を含んで、独創的な世界観を組みあげていたのに対し、この「パラレルワールド」は、純粋に一科学者としての視点から、現在までにわかっていることをとても客観的に解説している。
この著者は、たとえ話しにしても、身近な映画やSF小説の物語を引き合いに出してわかりやすく話しをすることが多く、難しい話しを面白おかしく語ることが本当に上手だ。ノンフィクションであるにもかかわらず、とても良く出来たフィクションの物語を読んでいるような感じだった。
【名言】
ここで私が言いたいのは、ビッグバン理論は憶測ではなく、複数の出所による何百ものデータにもとづいているということだ。それらのデータはどれも、自己矛盾のない一個の理論を裏づけている。科学では、どの理論も平等にできているわけではない。だれでも自由に自分なりの宇宙創成の理論を打ち出せるが、これまで集めたビッグバン理論と合致する何百ものデータを、それで説明できなければならないのだ。(p.62)
量子テレポーテーションの研究は急速に進歩している。2003年には、スイスのジュネーブ大学の科学者が、光ファイバーケーブルを使って、光子を2キロメートル離れた場所にテレポートさせるのに成功した。この実験にかかわったニコラス・ギシンは言っている。「分子のようにもう少し大きな物体も、私が生きているうちにテレポートできるようになるかもしれないが、本当の意味で大きな物体は、予測可能なテクノロジーではテレポートできないだろう」(p.215)
M理論の登場により、現代物理学が直面している最大の問題-一般相対性理論と量子論のあいだの溝を埋めるという問題-に立ち向かうことを余儀なくされているのだ。このふたつの理論に、なんと宇宙の基本的なレベルの物理的知識がすべて詰まっている。現時点では、M理論だけが、宇宙にかんするこの一見矛盾したふたつの理論をまとめて「万物理論」にする力を秘めている。(p.223)
先進文明の人々は、みずからの肉体的存在を、時間をさかのぼったり別の宇宙へ脱出したりする困難な旅を生き抜ける存在に変える決断を下し、炭素をシリコンに置き換え、意識を純粋な情報に還元するだろう。結局のところ、われわれの炭素ベースの体は脆すぎて、これほどのスケールの旅がもたらす物理的負荷に耐えられないのだ。(p.402)
現代生きている世代は、これまで地球上で暮らしてきた人類のなかで最も重要な世代なのではなかろうか。今までの世代と違ってわれわれは、自分たちの種の運命をみずから握っている。タイプI文明の実現へ向けて高く舞い上がるのか、それとも、混沌と汚染と戦争の淵に沈むのか。われわれの決断が、今世紀全体に影響を与えるだろう。(p.428)