『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』をクリアした。
この作品は、本当にものすごかった。
前作の『ブレス オブ ザ ワイルド』が、新たな時代を創り出すクオリティーの傑作だったので、その続編を出すというのはかなりのチャレンジだったと思うのだけれど、前作をも超えてしまう、とんでもない最高傑作だった。
前作の広大なオープンワールドでの行動の自由さに、空中と地底を加えた立体的な広がりも追加されて、さらにバリエーション豊かな移動が可能になった。
5月12日の発売日から始めて、クリアしたのは2週間後の5月26日。プレイ時間は170時間ほど。
「クリア」というのは、ラスボスであるガノンドロフを討伐した、という意味で、数多く実装されているやりこみ要素については、まだまだ底知れぬほどのボリュームが残っている。
今作をプレイするにあたっては、攻略サイトなどの情報はいっさい見ずに、すべて自力で考えてクリアまで到達した。
いくつか、進め方がわからなかったクエストがあり、しばらく進行が止まった時期もあったけれど、それでも最後まで到達することはでき、悩んだぶん、達成感もひとしおだった。
もし事前に攻略方法を知って、それをなぞっていったら、ただの作業になっていただろう。
圧倒的な自由さ
『ブレス オブ ザ ワイルド』をやっていて驚かされるのは、やはり、「なんでもあり」の圧倒的な自由さだ。
祠の解法については、一応、想定された理想的な解答は用意されているけれども、そのやり方でないと解けないというわけではなく、要は出口までたどり着くことが出来さえすれば、どんな方法であっても正解になる。
ものすごく性能がいい物理エンジンが搭載されているから、現実世界でこういう操作をしたらこういう動きになるだろう、という想定がそのままゲーム上で再現される。
そのために、想像力が豊かな人ほど、さまざまな解き方を発見することができるという楽しさがある。
そして、今作で新しく登場したギミックのうち最も特徴的なのが、パーツを好きなように組み合わせて工作できる「ウルトラハンド」で、この自由度の高さもものすごい。
板や柱のような単純なパーツの他に、独自の機能を持ったゾナウパーツがあることで、何倍にもクリエイティブな可能性を増幅させている。
これは、レゴブロックの楽しさだけでなく、電子回路の工作キットが持つ面白さに近い。
電気を使った、モーター(動力)、風力、浮力、車輪、滑車、熱源を、思うがままに組み合わせることができて、それらすべてが、重力や空気抵抗を加味して、リアルに動作する。
物理法則を実験できるシミュレーターを自在に使えてしまうこと自体が最高の学びだ。
知育玩具としての切り口だけで考えても、これほど面白い教材は他にないだろうと思う。
ひと昔前なら、スーパーコンピューターでおこなっていたような物理演算が、ゲームソフト上の優れたUIで動かせてしまうのは革命的なことだ。
成長の手応えを感じられるデザイン
リンクは最初、めちゃくちゃ弱い。
ほとんどの敵には一撃で倒されるので、息を潜めて見つからないように移動する必要がある。崖を登ろうとしても、すぐに息が切れて力尽きてしまう。
装備も道具も乏しいし、プルアパッドで見れる地図もほんの一部を除いて真っ暗な状態。なんかもう、いろいろと不自由すぎるところからスタートするのだけれど、そこからほんの少しずつ強くなって、行動範囲が広がっていく。
RPGと違ってレベルアップという概念はないけれども、行動すればしただけ、自分ができることが少しずつ増えていくという意味では、時間と共に確実に成長の手応えを感じられるデザインになっている。
この、だんだんと強くなっていく感覚が、楽しくて心地良い。
バトルの難易度は、今作で導入された、仲間が一緒に戦ってくれる、というシステムがあり、そのために一人だけで戦っている場合よりも格段にバトルが楽になる。
とくに、ルージュのアシストで使えるようになる、「雷の矢」の範囲攻撃の威力が強烈で、これがあると無いとでは、難易度に大きな差がある。
しかも最高で5人まで仲間が増えるので、そうなってくると、強敵相手であっても、逃げ回っているうちに勝手に仲間たちが倒してくれる、という立ち回りが可能になったことで、バトルの緊張感はだいぶ軽減されてしまったように思う。
試行錯誤を繰り返しながら、自分なりの攻略を組み立てる必要があるバトルの難しさもゼルダの醍醐味の一つであったので、バランス的にちょっと易しくなりすぎた感じはあった。
ファミコン版『ゼルダ』から続く系譜
ファミコンディスクシステム版の初代『ゼルダ』が、今までの人生で一番好きなゲームである自分にとっては、初代のオマージュと思われる演出がたくさんあったことが嬉しかった。
3つの宝箱の中から1つを選んで運試しをする「宝箱屋」。
暗闇の中で明かりをつけて、周囲を照らしながら進んでいく地下世界。
ラストダンジョンに近づいた時のBGMは、初代のラストダンジョンである「レベル9」のBGMのアレンジ。
そして、メインの世界と相似の、もう一つの世界がある、というのはゼルダシリーズに共通する構造だ。初代『ゼルダ』には裏面があり、SFC『ゼルダ』では裏世界があった。
今作では、地底世界が登場し、それが地上の世界と対になっている構造で、その仕掛けがとても面白かった。
未発見の祠は、プルアパッドのセンサーからも発見をすることができるのに加えて、さらに、地底世界に点在する「根」が、地上の祠と対応していることを利用して、祠の場所を推測することができるようになった。
世界に誇れる一級のアート
ビジュアルの美しさについては、非の打ち所がない。
前作の『ブレス オブ ザ ワイルド』で、映像と音楽のクオリティーは高いレベルで完成されていたけれど、今回、広大な空の上からの眺めが加わって、一層、自然の美しさが際立った。
天然の物質と古代文明の人工物との融合にも、独自の世界観が表現されていて、その色合いといい、美しい工芸品を見ているのと同じ感動がある。
森の神秘性や、龍神の荘厳さ、など、日本的、東洋的な美意識が表現された、世界に誇れる一級品のアート作品でもあると思う。
まとめ
とにかくマップやクエストのボリュームが大きいので、遊ぶ人を選ぶゲームではある。隙間時間にササッと遊べるソシャゲとは違って、手軽にクリアできるゲームではない。
そのぶん、まとまった時間をとって遊べる人にとっては、これ以上ないぐらいに手応えのある大作だと思う。
時間をかけた分だけ、それに見合った驚きや楽しさを与えてくれる。そう信じられるからこそ、僕は腰を据えてじっくりと『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』に取り組むことを決めた。
それだけの信頼をおけるゲームがあるということが嬉しい。