『黒牢城』【直木賞】ミステリーである以上に組織論として名作


「黒牢城」(米澤 穂信/角川書店)

歴史小説の形をとった探偵もの、という珍しい形態のミステリー小説。

しかも、探偵役の黒田官兵衛は、牢の中に入ったまま、荒木村重から聞いた話だけを材料に推理をする、という点でも面白い。

殺人がおこなわれたのが密室なのではなく、探偵が密室の中にいる、という逆転のシチュエーション。

この、安楽椅子探偵が活躍する戦国時代小説、という設定だけでも、他には見たことがない、大きなユニークポイントだ。

文章が、少し古めかしい言い回しを意図的に使っていて、とても格調が高い。何を読んでいたらこんな文章が書けるようになるのかが不思議。

人物描写が巧みで、そのセリフからだけで、その人物がどんな性格なのかがよく伝わってくる。

物語のベースは、歴史的な史実をもとにしているため、一からの創作ではないという点も面白い。

ある程度、戦国時代の歴史に詳しければ、この時の荒木村重の状況や、その行く末を知っているし、黒田官兵衛が牢に囚われた経緯も理解をしている。

そのために状況説明をゼロからおこなう必要がなく、人物紹介も大幅に省略をすることができる。

なにより、黒田官兵衛を探偵にしたことで、なんとなくどんな性格の人物なのかを想像させる助けになるのは大きい。

ミステリーとしては、別々の4つの事件がオムニバス的に起こり、それが解決されていく、短編集的な構成になっている。

ミステリーの構成や謎解きの巧みさという点ではあまり感銘は受けなかったけれど、背後にある、人間心理の描写がとても緻密で、その繊細でロジカルな組み立て方は見事だと思った。

その流れで最終的には、いかなる理由で荒木村重は単身で城を抜け出し、その結果、一族郎党が滅びたのか、という、筆者なりの解釈にたどり着く。

読み終えた感想としては、ミステリー小説というよりは、人心の機微を考察した組織論、というような印象。

会社の管理職の人が読んだときに、共感できる部分が多くあるように思った。