『初恋、ざらり』一見わかりにくい障害を抱えることの葛藤


『初恋、ざらり』(ざくざくろ/KADOKAWA)

とてもよかった。
上下巻の2冊に収まる分量でありながら、たくさんの大切なことが詰め込まれている。

有紗の周囲の人の反応が、読んでいてとても突き刺さる。

パートの同僚の、噂好き、詮索好きのオバさんたちからの、嫉妬や陰口。
堂々と正面切っては言えないことも、更衣室の中での会話では格好のトピックになる。
醜いけれども、これこそが世間というものだよなと思う。

岡村のお母さんも、明るくて賢明な人だけれど、それだからこそ、突然に有紗からカミングアウトされた時に、「子供に・・遺伝とか・・」っていうつぶやきが漏れてしまうのとか、とてもリアルだと思った。

岡村はかなり、優しく寄り添える心根の持ち主だし、障害についても理解があるほうだと思うけれど、それでもやっぱり、限界がある。
とくに、短い期間つきあうだけなら色々なことに目をつぶってやりすごせるかもしれないけれど、いざ結婚をするとなると、途端に葛藤は大きくなる。それはそうだろうと思う。

作業が複雑で難しい部署から、元の比較的単純な仕事の部署に有紗を戻そうとした時、岡村は「みんな戻ってきて欲しがってるよ」と、優しさからの嘘をついたけれども、この嘘が結果的に有紗をとことんまで傷つけた。

これは、ものすごく繊細で取り扱いが難しい問題だと思う。
普通の感覚で、有紗にとって良かれと思ってやっていることが、裏目に出てしまう。

軽度の知的障害は見た目ではわかりにくい、と本人も言っていたけれど、これはたしかに、ある程度仕事などで関わらない限りわからないなと思った。

空気を読めないとか、暗黙の了解がわからないとかって、天然のうっかりさんと結構紙一重のところがある。
だから、事情を知らない人にとっては、物覚えが悪いことや新しい環境に適応しにくいことが、不真面目とか本人の努力不足であるようにしか見えない。

有紗のように出来ることと出来ないことがまだらになったグレーゾーンが多い場合、療育手帳を持つことが、本人にとってプラスになるかマイナスになるか、これは本当に難しい判断だなと思った。

物語は、ハッピーエンドのところで終わったけれど、この先どうなるかはわからない。

有紗の心の奥底に堆積している、自己肯定感の低さが根本的な部分にある限り、いかに岡村といえども救いきれない場面は出てくるだろうし、それは二人が歳をとっていくほどにより鮮明になっていく気がする。

ただ、二人とも子どもを生むつもりはない、ということで、親類家族のノイズは無視をすればいいし、だいぶ問題は簡略になると思う。共に生きていくことの恩恵は大きい。

2023年にドラマ化されて、そちらのほうも見てみたけれど、マンガのほうがずっと伝わるものがある。
絵が、微妙な表情とか、とても上手い。
有紗の心情やキャラクターも、マンガだからこそ表現できていることがいろいろあるなと思った。

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