寄生獣(岩明均/講談社)
この「寄生獣」というマンガは、「やるか、やられるか」というアクションサスペンスが基調になってはいるけれども、それだけで終わる単純な話しではなく、物語のテーマにはとても哲学的な命題が含まれている。
人間は常に、食物連鎖のピラミッドの頂点にいて、他のあらゆる生き物を食べ物としてきた。寄生獣は、そんな人間にとって史上初めて現れた「天敵」である。人間よりも明晰な頭脳を持ち、優れた運動能力と適応能力を備えている。
寄生獣が人間よりも、食物連鎖の構造において上位にいるのであれば、人間を殺して喰らうことに何の問題があるのか。
主人公の新一の右手に寄生をした「ミギー」は、寄生獣ではあるが、中途半端に寄生をしてしまったために、宿主である人間とも共生をしなければならないという事情を抱えている。
半分寄生獣、半分人間という、ニュートラルな立場であるミギーは、冷徹といってもいい、合理的な思考をする。
ミギーと新一とは、助け合って寄生獣の襲撃をかわし続けるのだが、ミギーが新一に協力をするのは友情からではなく、「宿主が死ねば自分も死んでしまうから」という、極めて利己的な理由からだ。
神の目とも言うべき、ミギーの客観的な視点の前では、善悪の区別も明確なものではなくなる。それでも新一は、ヒトという種のために一人、ヒトを捕食しようとする寄生獣と孤独に戦い続ける。とても様々なことを考えさせられる物語だ。
【名言】
「人の命ってのは尊いんだよ!」
「わからん・・尊いのは自分の命だけだ・・。わたしはわたしの命以外を大事に考えたことはない。」(p.88)
「シンイチ・・『悪魔』というのを本で調べたが・・いちばんそれに近い生物はやはり人間だと思うぞ・・。
人間はあらゆる種類の生物を殺し食っているが、わたしの『仲間』たちが食うのはほんの1~2種類だ。質素なものさ。」(p.90)