闇金ウシジマくん


闇金ウシジマくん(真鍋昌平/小学館)

※2008年3月現在、10巻まで発売中
個人的に、ベストコミックオブザイヤーになりそうな予感がする本。
消費者金融からも金を借りることが出来なくなった人に金を貸す、「闇金融」にまつわる世界を描いた作品。その利息は、十日で五割(トゴ)または一日三割(ヒサン)。「ナニワ金融道」も、裏の金融業界を扱った話しだったけれど、あれよりも数段コワい。数段、絵も上手くて読みやすい。
登場人物が、アウトローな人物ばかりで、カタギの職種の人は、ほとんどまったく出てこない。言い方を変えれば、この作品には、社会的に弱い立場の人ばかりが登場する。
力を持った人が、力が弱い人を見つけて、踏みにじる。
その、踏みにじられた人は、自分よりも更に力の弱い人を見つけて喰い物にする。
その連鎖の先は、遠くに霞んで見えにくくなっているけれども、それが行き着くところは社会のどこかに確かに存在している。
幕末や戦国時代の動乱の時期には、傑物が雲のように湧き出たけれども、それは、それらの時代に特別に人材が多かったわけではなく、乱世のほうが目立ちやすいというだけで、どの時代にも等しい割合で人材というのは存在しているものなんじゃないかと思う。
この主人公の丑島という人物は、肝がすわっていて、常に冷徹で、決断が早く、行動力もある。こういう、乱世であれば奸雄になるような人物は、現代の日本のような治世に生まれれば、能臣になるか、さもなければ闇金融でも始めるんじゃないだろうか。
ここまで救いのないマンガというのもスゴい。闇金融で金を借りる客は「奴隷くん」と呼ばれるが、その奴隷くんたちは、どこまでもどこまでも堕ちてゆく。この作品には、美しい夢は一片も描かれていない。全体的にポップな、独特のノリがあるのだけれど、それにもかかわらず重い。
作品の中には、街の風景のみをポツリと描いたコマが時々現れる。その景色はどれも、街が持つ殺伐とした、乾いた空気を切り取っていて、美しくさえある。
そして、さらに特徴的なのは「眼」だ。よく、眼のアップのコマがあるのだけど、その眼がコワい。獣の目との区別がつかない、原始的な恐れに訴えかけてくるような眼は、この作品の根底に流れる、狂気を象徴している。
この作品に出てくる登場人物はどれも非常に個性が強いが、特に、「リロ&スティッチ」のスティッチに似た、肉蝮というキャラのインパクトはスゴかった。こんな人間に関わってしまったら、そこで人生終わりだろう。
【名言】
「かっ・・肝臓とか売るンスか?」
「は?そんなのどこの誰に売るワケ?知ってたら教えてくれよ!」(1巻)
「一度なくした信用取り戻すのは、最初に信用作るより大変なんだ。」(2巻)
「ジャニヲタの誓いは全部叶わないと思う。誰にでも出来る簡単なコトが本当に出来ない人間もいる。ジャニヲタはそーゆー人間だ。僕もそーゆー人間だからよくわかる。」(4巻)
私はもう若くない。今日よりも明日と一日ずつ価値が下がってく。今までは、人間関係も仕事先も、住む場所も、嫌になればすぐ替えてきた。年を取ると、バイト先すら選べない。でも、私にはお金がある。お金があれば安心出来る。でも・・一生暮らせるお金じゃない。(6巻)
「偽名で都合のイイ自分演じているとね、失敗してボロが出ても、2度と会わなければイイだけでしょ?だから、今はフツーに話せるンです。でも、学校の友達とかは簡単にリセット出来ないでしょ?誰にもキラわれたくないから、気を凄い遣って意見とか合わせるんだけど・・疲れるんですよ、すっごく・・。」(8巻)
俺が思ってるよりも俺は変わっちゃったのかな?見た目も、中身も。
友達がいないって、こーゆー事か。俺には、自分の立ち位置を映してくれる人がいない・・。(9巻)