PLUTO


PLUTO 全8巻(浦沢直樹/小学館)

素晴らしかった。
「MONSTER」も「二十世紀少年」も、さんざん引っ張っといてこれかい!という感じが最後に残ってしまったので、浦沢式ストーリーテリングにあまり期待をし過ぎないよう距離を置いていたところだったのだけれど、この「PLUTO」は最高の構成だった。
この作品で特に好きなのは、未来都市のデザインだった。世界各地の建造物や都市のデザインが、惚れ惚れとするぐらいに美しい。国際機関や、モスクや、空港などは、本当に近未来の街に存在しそうなリアリティがあるし、話しの中に登場する車やインテリアの造型も、そのまま製品化出来そうなぐらいの完成度だ。
「アトム」の名前がタイトルにも出ず、しかも登場回数的にもそんなに多くないというところも好みだった。主人公は彼だけではない。この物語は、一人のヒーローによって世界が救われる個人戦の話しではなく、様々な立場や能力を持つ人たち(ロボットたち)が、いかにして調和していくかという、団体戦の話しなのだ。
余計な伏線を張ったり、未消化の謎が残ったりということもなく、冗長にならずに、きっちりとまとめられているという点も、とても素晴らしいと思った。それぞれの巻の終わり方まで、計算され尽くしているように思える。大作映画をしのぐ感動をペンによって作り上げた、この偉業を讃えたい。
【名言】
「完璧・・人を殺す完璧・・それはどういうことです?
それは・・”人間”ということですか?」(2巻p.79)
「お茶の水博士。あなたは電子頭脳に関して何もわかっていない。
挫折・・強い憎悪・・人を殺すかもしれないほどの強い憎悪こそが・・電子頭脳を育てるのだ。」
「間違っている。天馬博士。あなたは間違っている。」
「間違う頭脳こそが完璧なんだ。
その時誕生するのだ。地上最大のロボットが・・」(4巻p.192)
「不思議だね、ロボットは・・
我々人間に涙を流させる。なぜだろうね。」(8巻p.52)
「そう、もうひとつ教えてやろう。
最高の人工知能というのは・・嘘をつく。
自分自身にも嘘をつく。」(8巻p.67)