廃用身

廃用身 (幻冬舎文庫)
廃用身(久坂部羊/幻冬舎)

廃用身というのは、耳慣れない言葉だけれども、麻痺などで動かずに回復する見込みもない手足のことであるらしい。
この廃用身を切断すれば、体重が軽くなって身動きがしやすくなるし、周りの人も介護がしやすくなるのではないか、ということを思いついた医師の手記、という形式で話しは進んでいく。
植木や植物を間引きするのと同じように、不要となった部分をなくすことで、健康な部分の機能を向上させる効果も期待できる、という理由も廃用身の切断にはあるが、そういったメリットを考えに入れても、やはり心情的にはそう簡単に割り切れないところがある。
「廃用身」という言葉自体も結構ショッキングなものがあるけれども、それ以上に、ここで描かれている老人介護の現場も、かなり凄惨な印象を受けた。
色々と、とにかく描写が細かくて、うんざりしてしまうぐらいはっきりとシビアさが伝わってくる。しかしそれは実際、老人介護の現場では避けて通れない現実なのだ。
今後、数十年ののちには、3人に1人が高齢者という時代が確実にやって来る。この「廃用身」という話しは、単なるフィクションではなく、医師でもある筆者が、小説という形をとって老人介護問題に対する問題提起をしている作品なのだと思う。
【名言】
年寄りたちに対して、ぼくは圧倒的に優位なんです。一から十まで、どこを取っても・・。だから、親切にできたんです。ぼくの親切の源は、圧倒的な優越感だったんです。老人介護には常にこういう構図があります、弱肉強食みたいな。年寄りは若い者にぜったい逆らえない・・。ぼくは、純粋に親切のつもりで、やってきたんですがね、卑劣きわまりない・・。(p.332)