生きるコント(大宮エリー/文藝春秋)
かなり笑った。エッセイでここまで面白く書けるというのはスゴい。
色々と変わった出来事に遭遇しているというよりも、遭遇していることは普通なのに、それに対する本人の反応が普通じゃないんだろうと思う。
しかも、そのことを自分自身で客観的に理解をしているから、こういうエッセイを書いて他人に伝えることが出来るわけで、こうなると、日々のあらゆることがコントになってしまうに違いない。
これを読んで、明るい気持ちになるのは、毎日を面白くするもつまらなくするも、自分自身の選択次第と思えるからだ。どんな平凡な出来事の中からでも、自分の気の持ちようと観察眼によって、相当に面白いものを生み出すことが出来るというのは、希望が持てる話しだ。
【名言】
わたしの人生は自虐でできているのだ。だから、肩書きに書いてある映画監督は、わたしの勇気の証である。出演してくれた俳優さん、関わってくれたスタッフに対しての。わたしの肩書きがもし、「クリエーター」などという曖昧なものだったら、どうだろうか。言い訳のように映るのではないだろうか。俺たちはそんな逃げ腰の、逃げ場を用意した人間の映画に関わってしまったのか?と思うだろう。(p.65)
先生は理由が見つかってほっとしているようだった。「運動したほうがいい。してる?」なんて聞いてきた。そのうち、何か変な気配がした。わたしは自分でも驚いたのだが、大笑いしはじめた。わははは。
先生はさすがに怯えて「何を笑っているんだ」と聞いた。わたしはうつぶせのまま答えた。「だって、今、もしかして、鍼、うってません?」先生はちょっと間をおいて「よくわかったね。言うと怖がると思ったから」。ひど過ぎです。わたしは今までどんなに薦められても鍼だけは頑なに拒んで鍼灸院には行ったことがない。その鍼を、こんな、どさくさにまぎれて、太り過ぎだとかいう曖昧な理由で診断をされた上、こっそり打たれてしまうなんて。(p.128)