情報力(佐藤優・鈴木琢磨/イースト・プレス)
北朝鮮という国について解説をした本、というよりも、北朝鮮のような「謎のベールに包まれた」というイメージがある国について、どのように情報を収集して、自分なりに分析をするか、という方法論についての、佐藤優氏と鈴木琢磨氏の対談。
まず、北朝鮮という国が、想像していたよりもずっとまともなシステムを持っていて、それぞれの行動には、意外ときちんとした意図がある、ということを理解出来たことが大きかった。
鈴木氏は、北朝鮮についての情報のほとんどは、新聞や機関紙など、一般の人でも比較的簡単に入手出来るソースを元に分析しているのだという。
データソースをいくら数多く集めても、正しく活用出来なければ意味がない。それを有用な情報にするには情報力(インテリジェンス)が必要になる。そのために、最も重要なことは、文化的背景まで含めて原文を正確に理解する語学力、特に「読む力」なのだということがよくわかった。
第四章は、佐藤氏と鈴木氏の、一般的な情報整理のやり方についてお互いに公開をしている。手書きのメモや、現物の資料の保存を重要視して、インターネット上の情報を軽視しているところは、あまり同意出来なかったのだけれど、三章までの、北朝鮮に関する二人の対談は、鈴木氏の豊富な経験からの、独特な見解がたくさん引き出されていて、読んでいてかなり面白く、タメになる内容だった。
【名言】
「金正日がバカな国民をコントロールしている」「国家ぐるみで洗脳がおこなわれている」と言う人がいます。しかし、実際はそれほど単純ではない。私たちとあまり変わらない判断力を持った人間もいる中で、金正日がつくったシステムがうまく回っている。基本的には、徹底した監視と暴力装置が働いているのは間違いありませんが、それだけではない。北朝鮮が怖ろしく多様なシステムを持っていることを理解すべきです。(鈴木)(p.60)
いまの北朝鮮をめぐるあらゆる動きは、2010年の「先軍五十年」へ向けて流れているように見えます。「先軍四十五年」は、彼らにとってとても大きな節目です。ましてや五十年という節目はとてつもなく大きな意味を持つ。金正日時代の総決算ですよ。そういった彼らの時間のモノサシを、私たちはもっと鋭く見きわめるべきです。(鈴木)(p.71)
作家に小説を書かせるシステムは、旧ソ連とよく似ていますね。モスクワの郊外にペレデルキノという村があって、そこに作家の別荘が集まっています。その村には作家以外の人は入れません。村には特別なレストランがあり、安く食事ができたりもする。スターリンの時代には彼を称える作品がそこで書かれていました。(佐藤)(p.111)
主体元号と大正元号が同じだということは、奇妙な偶然です。「北朝鮮では大正時代がずっと続いている」と考えてみると、北朝鮮への視点がガラッと変わります。(佐藤)(p.170)
東京の神田神保町は世界最大の古書店街です。神保町を歩いてみる。すると、自分の目に飛び込んでくる本があります。その本は、自分そのものだと言ってもいい。それが情報です。そのトレーニングを積み重ねなければ、膨大な情報に埋もれてしまいます。(鈴木)(p.216)
語学教育で一番重要なのは、「読む」ことです。緊急の必要に迫られない限り、会話を学ぶ必要はありません。(佐藤)(p.245)