思いわずらうことなく愉しく生きよ
(江國香織/光文社)
【コメント】
それぞれ違った個性を持つ三人姉妹の物語。
まったく異なった性格と価値観を持ちながらも、同じ家庭で育ったという強い共通項で結ばれていて、お互いつかず離れずの関係を保ちながら、それぞれの毎日をおくっている。
誰もが、他の誰かからしたら、どこか変わった部分を持っていて、完全には理解することはどうやっても出来ない。
それはもちろん、姉妹だからといって例外ではないのだけれど、そういうのを理屈抜きで乗り越えて関わることが出来るのが血のつながりというものなのだろうと思った。
割と長めの本だけれども、とても読みやすくきれいな文章なので、まったく長さが気にならない。
話しが終わってしまうのが惜しいような、いつまでも読み続けていたいと思える本だった。
【名言】
「来ちゃった」
わずかに遠慮がちな笑みを浮かべ、育子は言った。
「麻子ちゃん、私を追い返す?」
と。それは、育子にしかできないやり方だった。育子にしかできない、そしてそのせいで麻子には拒めない--。(p.132)
「あたしたちは約束によってつながってるわけじゃないのよ。あたしは熊ちゃんがでていかないことに賭けるしかないわ」
最後にはかなしげに微笑みさえした治子だったが、熊木には、治子がなぜ微笑んでなどみせるのか理解できなかった。(p.276)
結局のところ、すべての物事に段階がある、という岸正彰の考え方が、育子には気に入ったのだった。理由ははっきりしていて、「わかりやすいから」だ。わかりやすさこそが、育子が日々求め、信頼し、愛してやまないものだった。(p.298)