亡国のイージス 上下巻(福井晴敏/講談社)
海上自衛隊の最新護衛艦イージスを拠点に、日本政府に対するクーデターが発生するという、「沈黙の艦隊」のような巨大スケールの物語。公安やら北朝鮮のテロ部隊やら謎の組織が色々と登場する上に、「米軍が開発した最高機密の特殊兵器」まで出てきて、ハリウッド映画的な大掛かりさなのだけれども、下地となっている設定はとても細かく綿密に練られていて、かなり話しには現実味がある。
主人公の、如月と仙石のキャラクターがとてもきわ立っていて、この二人の存在が、物語を格段に面白くしている。悪い組織を正義の味方が懲らしめる、というような単純な図式ではなく、それぞれにそれぞれの考え方と事情と立場があって、どちら側にも読者を共感させる要素を持たせているというのが素晴らしい。
話しの展開のさせ方や、盛り上げ方、収束のさせ方など、すべてにおいて上手にまとめられていて、それでいて、あっと驚くような仕掛けも随所に用意されている。ヒットする物語の創り方にある程度までのセオリーというものがあるとしたら、それを確実に実践しているのが、福井晴敏という人の小説なのだと思う。
【名言】
すべてを話した後、彼は自分は狂っているかとわたしに尋ねた。わたしはわからないと答えた。国家、主義、民族、飢餓、戦争・・・どれも理論では学んでいても、自分の身に置き換えて考えたことなどない。自衛官という、国防の前線に立つ身でありながらだ。(下巻p.371)