いのちの食べかた


いのちの食べかた(森達也/理論社)

この本を読んで、生まれて初めて、「この本に書かれていることを、一人でも多くの人に読んで、知ってほしい」という気持ちになった。
今の日本で、牛や豚や鶏の肉を食べない人はほとんどいない。まったく何の肉も口にしない日というのは一日だってないだろうと思う。しかし、スーパーでパックに入れられて肉が売られる前に、いったいどうやって「肉が作られているのか」ということは、あまりよくわかっていない。
肉を作るには生き物を殺す過程が必要で、それを日々おこなう屠場は芝浦をはじめとして、全国にいくつもあるけれど、その存在は奇妙なぐらい社会から「無いものとして」扱われている感じがする。
こういうことは、マスコミは決して積極的に報道しようとしない。それは部落問題や差別と密接に関わるために、暗黙のタブーの領域となっているからだ。
学校でもテレビでもそれをちゃんと伝えてはいないから、知らないのもムリはないとはいえ、その根本的な部分を知らずに疑問も持たずにいるまま暮らしているというのは、思考や想像力が止まってしまっている状態なのだと思う。
知らなくてもいいことは世の中にたくさんあるけれど、自分たちの命が他の生き物の命なしには成りたたないということは、何よりも先に知っていなくてはならないことだと思う。
その「知らなくてはならないこと」について、こんなにもわかりやすく書いている本は他に見たことがない。1ページ1ページが、衝撃と感動の連続だった。