素晴らしい映画だった。
遺体を清めて棺に納める、納棺師という職業をテーマにした物語。
なんといっても、主演の本木雅弘が良かった。チェロ奏者である主人公の小林大悟は、楽団の仕事を失って、地元の山形に戻って納棺師になる。
納棺師の所作というのは、茶道や華道のような厳粛さがあって、とても芸術的なものなのだと思った。チェロ奏者と納棺師というのは、遠く離れたものであるように見えて、精神的な部分では深いつながりがあるものなのだと思う。その精神性を体現する人物として、本木雅弘はぴったりハマっていた。
会社の社長役の山崎努も、とにかく渋くてカッコよかった。
日本という国は、人が亡くなった後の遺体を、単なる物(object)である以上の、何か特殊な存在として扱う感覚が強い国だと思う。だから、遺体を扱う仕事というのは、神聖であると同時に、普通の仕事とは違う種類のものとして考えられることもある。
先入観によって、納棺師という職業を軽蔑する人たちも、身近な人間の死によって、実際にその仕事を目の前に見せられることで、考え方が変わってゆく。
ちょっと、この映画での、納棺師という職業に対する反応は過敏すぎる気がして、そこには違和感があったけれど、それでも、自分の身内が就く仕事として受け容れられにくいということは実際あるだろうと思う。
昔ながらの自然と街並みが残る、山形を舞台にしているという点もいいし、作品中で流れる音楽もいい。この映画の良さは、ストーリーそのものの良さというよりも、役者と舞台と音楽とが、この作品のテーマにピッタリと合ったことで生まれた、奇跡的な調和の結果なのだと思う。
この映画は、上演30分前に映画館に行ったら、既に満席の状態だった。
「モントリオール世界映画祭」で賞を受賞したことで、知名度が上がったためと思う。非常に地味なテーマの物語なので、この受賞がなかったら、あまり知られることもなく、ひっそりと上映されて消えていったかもしれないし、自分もこの映画の存在を知らずに終わったかもしれない。この作品に出会えて良かった。
■おくりびと
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