私という運命について


私という運命について(白石一文/角川グループパブリッシング)

一人の女性の、29歳から40歳までという長い期間をじっくりと追った、半生記というよりはやや短めの、ドキュメンタリーのような小説。
そこで起こる出来事自体は、あまりリアリティーを感じないのだけれど、そこで主人公や、その周りの人が持っている思想や葛藤は、かなり具体的で現実味があると感じた。
タイトルが示す通りに「運命」ということがこの作品の重要なテーマになっているけれど、ここで提示されている運命論については、あまり共感することが出来なかった。だから、どうしても、しっくりこないような居心地の悪い感じが後に残る。途中、読み進めるのがツラくなってしまうぐらい、感覚的に受け入れられない部分もあった。
でも、なんとなく、現代にある生きづらさというような、わかりにくいモヤモヤ感をベースに、登場人物のキャラクターや、彼らが直面する悩みが設定されている気がするので、ハマる人にはぴったりとハマる小説なんだろうと思う。
【名言】
いまになって思えば、あの微かないらだち、あの非現実感こそが真実だったのだ。
であるならば、本物の運命とはやはり鮮烈で激しいものでなくてはならないのだろうか。そんな運命が、この私にもやって来ることは果たしてあるのだろうか。(p.201)
沙織は、もうこの美しい夕陽を見ることも、これほどの人気を博している歌を聴くこともできない。そう思って、亜紀はふと胸の奥から形容しがたい感情が湧き上がってくるのを感じた。それは、人は死んでしまえば、自分の死後もつづいていくこうした世界の様々な出来事を何一つ知ることができない、という虚しさのようなものだった。(p.265)