ジョン・レノン ラスト・インタビュー


ジョン・レノン ラスト・インタビュー(訳・池澤夏樹/中央公論新社)

ジョン・レノンがこの世を去る2日前におこなわれたというインタビューをまとめたもの。3時間ほどのインタビューを一冊にしているというから、分量を考えると、その時間の中の会話はほとんど収録している感じなのだろうと思う。そのためか、あまり内容のない雑談的な会話もそのまま載せられていることが多く、その場の雰囲気は伝わってくるけれども、密度という点ではそれほど濃くはない。
それでも、ところどころ、とても面白い箇所があり、特に、音楽から離れた、家の中での生活などプライベートな話題は、そのままジョンの人柄や個性がよく表れていて、とてもいい話しが多かった。
【名言】
ふりかえってみるとね、曲を書くことについてぼくが喋っている時には、いつも苦しいことだっていう印象で言ってるんだな。「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」にしても何にしても、喋る時にはとても苦しんで書いたということになる。(p.106)
ぼくにとって一番楽しかったのは、できた歌をまずテープに入れてみる時を別にすれば、インスピレーションの来る時でね、つまり歌というのはいきなりやって来るものであって、職人がなにかを作るみたいにすわっていてできるわけじゃないんだ。
ぼくの本当の喜びは、霊媒みたいに憑かれた状態でいることなのさ。ぼやっとすわっている時に、夜中かなにかにいきなり来ることもあるし、来てほしくない時に来ることだってある。それが、一番ぞくぞくするようなすごいことなんだ。そこで、ぼくが横になっている時にいきなり歌が完全な形で、歌詞も節もやってくる、それをさ、ね、歌を書くなんて言えるかい?いったい歌ってのは書けるものかい。作るんじゃなくて、思いがけず贈られるようなものさ。(p.110)
しかし要するに食事だ、人は食事によって生きる、食事と食事の間の規律によって生きるんだ。そしてぼくのもう一つの面はいつも女たちの奉仕によっていた、それはミミ叔母さんだったりほかの誰か、恋人とか妻とか、いろいろいたけどね。酔っぱらってひっくりかえって寝ちまっても、次の朝には同じ学校の女友達か誰かがちゃんと朝食を作ってくれる、ほら、その子にしたって前の晩は同じようにパーティーに行って酔っぱらっていたのに、女の人ってのはふと気がついてみるとちゃんと台所のカウンターのむこう側に行っているんだ。だからさ、これは大変な経験で、ぼくが生まれて以来ずっと女の人たちがしてくれたことに感謝しているのさ。(p.138)
最初ここへ越してきた時には、ぼくたちはヴィレッジに住んだんだ。いきなり誰かがなにか言うとか、飛びかかってくるんじゃないかとか、びくびくしていて、それがなくなるのに二年かかったよ。今はもうふつうに玄関を出て、レストランにも入れる。これがどんなにすばらしいことかわかるかい?あるいは映画館に入ることが?つまりね、人が来てサインをねだったり、やあって言ったりはしても、決してこっちを困らせはしない。レコード気に入ったよ、なんて言う。このあいだぼくたちはレコードを出したからね。だけどその前はね、どうしてる?とかさ、坊やは元気?とかどなるんだ。本当に嬉しいものだよ。(p.174)