アルケミスト


アルケミスト(パウロ・コエーリョ/角川書店)

非常に示唆に富んでいるようにみえて、実際のところは具体的なことをほとんど言っていないという、すごく変わった本だ。この本が多くの人に影響を与えているのは、読み手にその解釈を自由に許す、寛容さにあるのだろう。
この本は、ハリー・ポッターの物語に出てきた、それを見た者が最も強く意識をしているものに自動的に姿を変えるという亡霊によく似ている。だから、読んだ人の数だけメッセージが生まれるというのが、「アルケミスト」という物語の最大の特徴なのだと思う。
自分にとっては、一番印象に残ったメッセージは、
・すべてのものごとには前兆があるということ
・しかるべきタイミングで前兆に従わなかった場合、それは永遠に失われる

というシビアな警告で、それは村上春樹の小説の中でたびたび出てくるテーマととても近いものがあると思った。
【村上春樹の小説で、同じことを感じた部分】
人にはそれぞれ、あるとくべつな年代にしか手にすることができないとくべつなものごとがある。それはささやかな炎のようなものだ。注意深く幸運な人はそれを大事に保ち、大きく育て、松明としてかざして生きていくことができる。でもひとたび失われてしまえば、その炎はもう永遠に取り戻せない。(「スプートニクの恋人」p.262)
みんないろんな生き方をする。いろんな死に方をする。でもそれはたいしたことじゃないんだ。あとには砂漠だけが残るんだ。本当に生きているのは砂漠だけなんだ。(「国境の南、太陽の西」p.89)
あのときに、彼女は本当に僕のことを求めていた。彼女の心は僕のために開かれていた。でも僕はそこで踏みとどまったのだ。この月の表面のようながらんとした、生命のない世界に踏みとどまったのだ。やがて島本さんは去っていき、僕の人生はもう一度失われてしまった。(「国境の南、太陽の西」p.170)
【名言】
「あの男も、子供の時は、旅をしたがっていた。しかし、まずパン屋の店を買い、お金をためることにした。そして年をとったら、アフリカに行って一ヶ月過ごすつもりだ。人は、自分の夢見ていることをいつでも実行できることに、あの男は気づいていないんだよ」(p.29)
自分は羊と宝物の間で迷っている、と少年は思った。彼は今まで慣れ親しんできたものと、これから欲しいと思っているものとのどちらかを、選択しなければならなかった。(p.34)
私たちは持っているもの、それが命であれ、所有物であれ、土地であれ、それを失うことを恐れています。しかし、自分の人生の物語と世界の歴史が、同じ者の手によって書かれていると知った時、そんな恐れは消えてしまうのです。(p.91)
少年がその瞬間、感じたことは、自分が、一生のうちにただ一人だけ見つける女性の前にいるということだった。そして、ひと言も交わさなくても、彼女も同じことを認めたのだった。世界の何よりもそれは確かだった。彼は両親や祖父母から、結婚相手を決める前には、相手と恋におち、相手を本当によく知る必要があると言われていた。しかし、おそらく、そのように言う人たちは、宇宙のことばを一度も学んだことがないのだろう。なぜなら、その言葉を知っていれば、砂漠のまん中であろうと、大都会の中であろうと、この世界には、誰かが自分を待っていてくれる人が必ずいると理解するのは簡単だからだ。(p.110)
「では、もし僕がここにとどまったら、どうなるのですか?」
「どうなるか教えよう。おまえはオアシスの相談役になるだろう。たくさんの羊とたくさんのらくだを買うためのお金も、十分に持っている。ファティマと結婚して、二人とも一年間は幸せに過ごす。おまえは砂漠が好きになり、五万本のやしの木の一本いっぽんを知るだろう。それらは、世界が一刻一刻変わってゆくのを証明しながら育っていくだろう。おまえは前兆の読み方がどんどんうまくなってゆく。それは、砂漠が最高の先生だからだ。
二年目のいつ頃か、おまえは宝物のことを思い出す。前兆が執拗にそのことを語りかけ始めるが、おまえはそれを無視しようとする。おまえは自分の知識をオアシスとその住民の幸せのために使う。族長はおまえのすることに感謝する。そして、おまえのらくだは、おまえに富と力をもたらす。
三年目にも、前兆はおまえの宝物や運命について、語り続けるだろう。おまえは夜ごとにオアシスを歩きまわり、ファティマは、自分がおまえの探求のじゃまをしたと思って、不幸になる。しかしおまえは彼女を愛し、彼女はおまえの愛にこたえる。おまえは、ここにいてくれと彼女が決して言わなかったことを思い出す。砂漠の女は、自分の男を待たなければならないと知っているからだ。だからおまえは彼女を責めはしない。しかし、おまえは砂漠の上を歩きながら、もしかして自分は行けたかもしれない・・もっとファティマへの自分の愛を信じることができたかもしれない、と何度も考えてしまう。なぜなら、おまえをオアシスに引き止めたものは、二度と帰って来ないのではないかというおまえ自身の恐れだったからだ。その時、おまえの宝物は永久に埋もれてしまったと、前兆は語るだろう。
そして四年目のいつか、前兆はおまえを見捨てるだろう。おまえがもう、それに耳を傾けるのを止めてしまうからだ。部族の長たちはそれを発見して、おまえは相談役の地位を解かれてしまう。しかし、その時にはおまえは金持ちの商人になっていて、多くのらくだや商品を持っている。おまえはその後の人生をずっと、自分は運命を探求しなかった、もうそうするには遅すぎると思って、暮らすだろう。
男が自分の運命を追求するのを、愛は決して引き止めはしないということを、おまえは理解しなければいけない。もし彼がその追求をやめたとしたら、それは真の愛ではないからだ・・大いなることばを語る愛ではないからだ」(p.141)

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