ブラック・スワン


ブラック・スワン

これは怖い。
バレエをはじめとする、華やかなステージの世界というのは、その裏側では足の引っ張り合いや疑心暗鬼の渦巻く世界というイメージがあるけれど、心理サスペンスを描くにはうってつけの場所だと思った。
自分が主役として立っている舞台で踊れなくなる夢っていうのは、
これはもう、舞台に出る人にとっては、最も恐ろしい悪夢なんだろう。
そういう不安を表現する映像を見せるのがものすごく上手い。
壁に貼ってある絵が動き出すとか、いくら洗っても血が落ちないとか、もう、薬物中毒とか精神分裂症で見る幻覚みたいなのがフルセットで次々に出てくる。
特に、合わせ鏡の中に無数に映る自分の姿のうち、一つだけが振り返るってのはすごい。
ただ、映像の中で現実と妄想を混ぜてどっちで起きた出来事だかはっきりさせないというのは、「それをやったら何でもアリ」になってしまうので、夢オチと同じく、反則技な気がする。
「白鳥の湖」の舞台の佳境である、ブラックスワンを踊る舞台が凄絶で、迫力がある。「おまえには白鳥は踊れてもブラックスワンは踊れない」と言われた主人公が、いかに暗黒面を自分のものにするかがテーマになっているのは面白い。
真の芸術と狂気は紙一重という、その極限の世界を描いた点は、かなりスリリングで好みの映画だった。