犬を飼う


犬を飼う(谷口ジロー/小学館)

動物マンガは数あれど、その多くは、動物の愛らしさを描いたものだと思う。しかし、この作品は、まったく違うことを教えてくれる。飼っていた動物を看取るということの哀しさ。この物語は、老犬が15歳の生涯を閉じる直前の、1年間の出来事を描いている。
動物は人間よりも寿命が短い分、その幼少期から晩年まですべての期間を共に過ごすことも多い。元気だった時を知っているだけに、晩年は一層寂しさが増す。その辛さと正面から対峙した、とても現実的な物語だ。
5作品を収めた短編集になっていて、そのうち3編「犬を飼う」「そして・・猫を飼う」「庭のながめ」は、犬と猫が主人公になっている。動物と家族との交流の機微をテーマにした話しで、いずれも、しみじみと考えさせられることが多い、素晴らしい作品だった。
最後の一編、「約束の地」はまったく趣向が変わって、エベレスト登山の話し。「神々の山嶺」の世界をダイジェストにしたような短編で、やはりこの人は、山の絵がバツグンに上手い。
【名言】
楽しいことなんか、なんにもありゃしない。あたしゃね、迷惑かけたくないんだよ・・このこだってそう思ってる。そう思ってるんだよ。
でもね、死ねないんだよ・・なかなかね・・死ねないもんだよ。(p.35)
幸福だった・・子供がいる。妻がいる。私が考えてもみなかった暖かな家庭がここにある。これが幸福というものか・・とつくづく思う。
もう私には手離すことができないだろう。この守るべき幸せな家庭が、私の中でかけがえのない生きがいとして定着しはじめていた。(p.148)
チャンゴは、わしらにとっちゃ、やっぱり山の神様でさあ。食べる物なんかないはずなのに、それでもチャンゴはあんな高い山で生きているだよ。ありゃあ・・世にも美しい生き物でさ。(p.163)