池上彰教授の東工大講義


池上彰教授の東工大講義(池上彰/文藝春秋)

2012年に東工大でおこなわれた15回の講義をもとにした講演録。話し口調に近いことと、内容が講義用にまとまっているので、とても話がわかりやすかった。どの回も、その時々の時事的な話題と関連して話しているところも良い。
最終章の、日本からサムソンに転職した技術者の話は、学生が時分の意見を述べて、そのプレゼンに対して池上さんがコメントをするという、アメリカの大学のような形式で、それが特に面白かった。
こういう内容は鮮度が大事なので、書籍化するまでに時間を空けないことが肝要と思うのだけれど、それがとてもスピーディーにおこなわれていて素晴らしいと思った。まずは日経新聞の紙面で連載され、その後に文藝春秋が単行本化、という流れの仕組みが上手くいっているのだと思う。

【面白かった話】
日本銀行には、預金は出来ないが交通違反の反則金を納めることは出来る。(p.65)

アメリカの大統領選挙の投票日は「11月の第一月曜日の翌日」と決められている。11月1日はキリスト教徒にとって「諸聖人の日」で、これと重ならないようにするための規定。(p.183)

イチローがマリナーズからヤンキースへの移籍直後の初戦は、マリナーズ本拠地でのマリナーズ戦 だったが、イチローはマリナーズのファンからのスタンディング・オベーションで迎えられた。(p.251)

【名言】
サブプライプローンは、信用度の低い人に賃金を貸す仕組みです。信用度が低い分、高金利のローンです。
皮肉なことですが、お金をたくさん持っている人に対しては、金融機関は低い金利で資金を貸します。必ず返してもらえるだろうという信頼があるからですね。これに対して、お金を持っていない人には、高い金利の支払いを求めます。お金をあまり持っていないのですから、本当は低い金利で借りたいのに、そうはならないのですね。(p.107)

中東のイスラム国家サウジアラビアの入国カードには宗教欄があります。どんな宗教を信じようが信じまいが、個人の自由ではないかと思ってしまいますが、そうはいきません。
かつて日本人がここに「None」(なし)と書いて、入国を拒否されたことがあります。「神を信じていない者は、神をも恐れぬ行動に出るやもしれぬ。テロリストではないか」というわけです。(p.158)