ウルトラヘブン

ウルトラヘヴン (1) (ビームコミックス)
ウルトラヘブン(小池桂一/エンターブレイン)

世の中にはとんでもない天才がいるものだと思った。
この本が描いているのは、薬事法改正でドラッグの規制が緩和されて、ドラッグが煙草のような嗜好品として日常的に扱われる世界。客の好みに合わせてドラッグのカクテルを作って出すポンプバーがあったり、衛生局の査察官による取り締まりがあったり、そういう近未来描写がまず、すごい想像力だ。
なによりも、ドラッグでトリップした時の表現がものすごい。時間の動きがコマ送りみたいになったり、自分の手が壁にくっついて細胞分裂をしていったり、遠くの物と近くの物の位置が逆転したり。これだけは、とても文章による表現では到底追いつけない。読んでいて怖ろしくなるほどの、とんでもないリアリティーだった。
ドラッグの作用というのは、端的にいえば、脳内の体内時計をズラすものであるらしい。パソコンでいえばCPUのクロックのようなもので、人間はそれに従って脳が情報処理をしているから、秩序と意味を持って現実を把握出来る。その時計の周期がズレると、時間も空間も無秩序に自分の感覚の中に流れ込んでくることになる。
しかし、考えてみれば、時間と空間というものを秩序立てて理解出来るということのほうが特別なことで、世の中のありのままの姿というのは、この作品に表れているような混沌状態にあるのではないかと思った。
擬似的にせよ、その混沌を、あたかも秩序があるかのように構築する「脳」というのは人間の理解を遠く超えたブラックボックスとしか言いようがない。
世の中には、その時々に応じて、その時代の人間が共通に持つコモンセンスがある。人類は、地動説や進化論を知る前と後とでは、世界観がまったく違う。そして、センセーショナルな発見をトリガーにして世界観が変わるのと歩調をあわせて、人の意識も進化してきたのだろうと思う。
この作品は、人間が持つべき常識を、数十年は先取りしているんではないだろうか。これほどの衝撃を受けた作品は、久しぶりだった。
【名言】
・・遠い遠いさいはての地から、ばからしくもなつかしい古巣へ帰りついたような・・そんな印象だけが残ったな・・この地の果て、人がたどりつける最も遠い・・(1巻 p.84)
薬事法改正以来、この国じゃ誰もが気軽に気分を変えられるようになった。安堵、緊張感、ノスタルジー・・あらゆる精神状態がポンプ一発で手に入る。まやかしだよ、何もかも・・脳内物質のバランスをほんの束の間いじるだけ。結局は何も変わらない・・(1巻 p.107)
量子論的に言うならば、脳における情報処理は量子における波動関数の崩壊であるということです。では、実際に波を形づくるのは何か?波の動きは何によって条件づけられるのかというと、それは海全体のうねりなんです。つまり、ひとつの波は海全体の運動状態を表現している・・ひとつの素粒子は全宇宙の情報を表現しているとも言えます。(2巻 p.48)
脳の自動的な情報処理がストップしたの。生まれたての赤ん坊と同じ。
たいていの人に赤ん坊の頃の記憶がないのは、記憶は情報が処理されて初めて成り立つものだから。いまあたしたちがいるのは、それ以前の、量子的ゆらぎの世界。エネルギーの海・・。(2巻 p.106)

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