ファウンデーション

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銀河帝国興亡史 1~3巻(アイザック・アシモフ/早川書房)

1巻「ファウンデーション」
2巻「ファウンデーション対帝国」
3巻「第二ファウンデーション」
アシモフの代表作といえるSF小説なので、いずれ読んでみたいと思っていた話しを、ようやく最近読んだ。
1巻~3巻までで一区切りということになっていて、1巻では、「銀河帝国」と「ファウンデーション」という、物語の基本的な世界観を組み立てた後、2巻、3巻と続いて推理小説のような謎解きが中心になる。特に3巻は、登場人物同士の推論の応酬が繰り返された後、最後になってタネ明かしがされるという、本格ミステリーの色合いが濃い。
物語の中でハリ・セルダンが提唱する、「心理歴史学」という概念がまずスゴい。
原子物理学と同様の考え方で、一つ一つの原子がどういう動きをするかは予測がつかないけれど、膨大な数の原子が集まった時の全体としての動きは確実に予測が出来る、という理論を人間の心理に応用した学問が、この物語のベースになっている。
今の地球の、数十兆というような人口の規模では心理歴史学は適用出来ず、1000兆という人口を対象とした時にはじめて予測が可能になる。それによって、いつ現在の帝国が滅びて、次の文明の復興がいつになるのかというところまでを、かなり高い確率で言い当てることが出来てしまう。
この、心理歴史学というのは、「ファウンデーション」シリーズで非常に重要なテーマになっていて、物語のすべては、ハリ・セルダンが打ち立てた「セルダン・プラン」という未来予測を中心として進んでいくことになる。
銀河帝国滅亡後、文明再興までの期間を、数千年というスパンから数百年にまで短くすることを目的とした「セルダン・プラン」は、果たして実現するのか、途中でついえてしまうのか。
この、宇宙全体を舞台にして、何千年という歴史を扱う年代記のスケールは、かなり壮大で魅力的だ。
文明復興の役目をおったファウンデーションという国家が、非常に小さな、資源に乏しい技術立国であるという点は面白い。この作品が最初に出版されたのは、第二次世界大戦直後の1951年だけれども、この重厚長大な銀河帝国と、小国ファウンデーションは、その後のアメリカと日本を連想させるものがあると思う。
【名言】
惑星全体の人々の心理歴史学的な流れは、きわめて強力な慣性を持っています。それが変化するには、それと同等の慣性を持つものと出逢わなければなりません。同じくらいの人数の人が関係するか、または、人数が比較的少ない場合には、変化のための膨大な時間を見込まなければなりません。おわかりですか?(1巻p.42)
今のところは次の事を知っているだけで充分だ。科学的避難所がターミナスに建設されるということ。そして、もうひとつが銀河系の反対側の端に、つまり、”星界の果て”に建設されるということ。その他としては、わたしは間もなく死に、きみはわたし以上に物事を見るだろうということ-いや、いや。びっくりしないでくれ。悪く思わないでくれ。わたしの寿命はあと1、2年だと、医者が言っている。しかし、わたしは意図したことを、生きている間に成し遂げた。どんな状況のもとでも、これ以上良い死に方があるだろうか?(1巻p.58)
この戦争全体は二つのシステムの間の闘いだ。帝国とファウンデーションとの。大きいものと小さいものとの。(1巻p.347)
今、攻撃しようと、全然、攻撃しまいと。ただ一隻の船でやろうと、帝国の全艦隊を繰り出そうと。軍事力を使おうと、経済的圧迫を加えようと。公明正大に宣戦布告して戦おうと、陰険な不意打ちをかけようと。あなたが自由意志を最高度に発揮して、何をしようと。それでも、あなたは負けるでしょう。(2巻p.45)
歴史の法則は物理の法則と同様に絶対的なものです。そして、もし、誤差の確率がより高いとすれば、その唯一の理由は、歴史学では物理学が扱う原子の数ほど多くは人間の数を扱わないので、個々の変化の重みがもっと強く効いてくるからです。セルダンはその一千年の成長の期間に一連の危機がやってくることを予言しました。そのひとつひとつが、あらかじめ計算された道にわれわれの歴史を押しこんでいく新たな曲がり角を否応なしに作りだしていくのです。(2巻p.144)
歴史の広大な流れは予言できると世間ではいうが、たったいま起こったことは、その中を潜り抜けてきたわれわれにとっては絶対の混乱でしかなかった。予言などとてもできるものではないと、感じないかね?(3巻p.315)