BASARA


BASARA 全16巻(田村由美/小学館)

時代設定としては「未来の日本」になってはいるけれど、雰囲気としては中世の戦国期っぽい感じで、色々な日本の民俗・歴史や、説話のプロトタイプを寄せ集めたコラージュのような物語だった。東大寺の建立と新撰組が一緒になったり、むちゃくちゃなごった煮なのだけれど、それを自然に融合させて、一つの新しい世界観を作り出している。
最初のうちは、シュリとタタラが、お互いの正体にいつまで経っても気づかないことに歯がゆくなったり、キャラクターの設定がイマイチよくわからなかったりで、だいぶ読みにくい感じがあった。
しかし、後半に入って、主要な人物が一通り揃ったあたりから、かなり深く作り込まれた背景を理解することが出来るようになってきて、だいぶ登場人物にも感情移入するようになり、俄然、面白くなってきた。
各章の性質を一言で表した、章タイトルのネーミングもいい。特に、ラストの締めくくりは、各所に散りばめられた伏線をきれいに収拾して、これ以上ないくらい見事な幕引きだった。風呂敷を広げるだけ広げて畳みきれないということになる物語は少なくないけれど、この「BASARA」は、充分に納得がいく素晴らしいエンディングになっていると思う。
そして、本編を読み終わった後には、13本の外伝が控えている。この外伝が、とっておきの楽しみになっていて、本編よりも更に面白い。本編よりもずっと過去の話しや、未来の話しが語られていたり、サブキャラクターが主人公になって別の視点から話しが進んだりする。こういう遊びは、土台となる本編がしっかりしていてこそで、この「BASARA」は他にいくらでも外伝が作り出せてしまいそうなくらいに、想像を喚起する余地と魅力がたっぷりとある物語だった。
【名言(外伝部分からのみ)】
「何がいけなかったのか、わたくしは知っているの。あの実を食べたから。アダムとイブが食べた、本当の禁断の実。花を咲かせず実をつける。わたくしと同じね」(15巻p.291)
「あんたいつか、命を賭けられるような女に出会うよ」
「『結ばれる女』じゃねえってところがミソだったな」(15巻p.337)
「うちは親の決めた婚約らに従えへんで。あんたがどの程度の男か、見きわめるまではな」
「おれがどの程度の男かは、すぐにでもわかる」
「・・顔は好きやな」
「男は顔とちゃうで」
「はあとやな」
「はあとや」
「言うとくけど、女も顔とちゃうで」
「はあとやな」
「はあとや」(16巻p.34)
「那智よ、おれらは大人になる。それは別々の思い出ができていく・・っちゅうことかな」(16巻p.36)
「銀杏は孫の代にならないと実がならないって言われてるくらい時間のかかる樹でさ。オレらもそうだったのかもな。早すぎた。きっと孫の代になる頃には、王家を倒すヤツが出てくるさ」(16巻p.124)
「日本は今、平和なんですね。だから、お互い言葉が足りない。平和な明日が必ず来ると思ってる?今言わなくても、明日?戦の時はそうじゃないでしょう。」(16巻p.175)
「甘くみたら痛い目にあうよ。一つに対して一つを返す人だと思うの?あの人は、100倍にして返すよ。きっと今わくわくして、どうしてやろうかとわくわくして、行ったよ。
ついでにね、あたしも、8倍くらいには返すよ」(16巻p.190)
「オラは魚を釣って食べるだす。それはフツーだべ。魚もオラを食べていいのだす。それもフツーだべ。
けんど、戦とかそういうのは、フツーじゃなくて気持ち悪いのだす。しなかったら、しなくていいのだす」(16巻p.250)
「人は、どこに生まれるかというより、誰に出会うか出会わないかが、大切だと思いませんか」(16巻p.279)