自分自身をさらけ出して人間の精神の迷宮を表現しようとする気魄。「おやすみプンプン」

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これは、、まだ完結していない今の時期で言うのは尚早かもしれないけれど、とんでもなくスゴい作品になる予感がする。(注:その後、全13巻で完結しました)

この、「おやすみプンプン」で、主人公とその家族のみを、極端にデフォルメした線画で描いているというのは、かなり挑戦的な遊びだと思ったけれど、単に前衛的な表現という以上の効果がこの線画にはあるということが、読み進めるうちにわかってきた。

キャラクターの感情を「記号」で表現した

もともと、マンガというのは、映画やアニメーションと比べると、動きや音声がない分、読み手の感情移入がしやすいメディアといえる。
そこに更に、キャラクターを戯画化することで、余分な情報を極限まで削ぎ落として、「汗」や「動線」のようなマンガ特有の技法だけを使うことで、登場人物の気持ちの表現を「記号」のレベルにまでシンプルにしてしまったこの作品は、これ以上ないぐらいに、読み手に感情移入の幅を持たせているのだと思う。

更にスゴいのは、本当に重要なシーンだけは、戯画から離れて写実的な描写に変えて描いているところで、そのことで、何がこの劇中のフィクションの中で、本当に存在感がある物なのかをはっきりと示そうとしているという事だ。
この作品が感動的なのは、単に技巧的な面だけで前衛を気取っているのではなく、作者が、本気で自分自身をさらけ出して、人間の精神の迷宮を表現しようとしている気魄が伝わってくるからだ。
それには、才能に加えて、尋常ではない覚悟が必要なんだろうと思う。
こういう作品を生み出しているということに、敬意を表したい。

名場面

・・僕はこの時こう思ったんだ。
もし神様がいるとするならば、
一体、なんのつもりで僕の平坦な日常に
その少女という存在を与えたのだろうか、と。(3巻)

彼女はきっと・・僕みたいな人間は
一生触れてはいけないものだったんだ。
それでも・・
美しいものを求めるのが人間。
・・弄ばれるのも人間。
壊すのもまた・・人間。(4巻)

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・・また、あの人は逃げたんだ。
・・何ひとつ成長してなかった。
私はあの人を変えてあげられなかった・・それが一番悲しい・・
・・違うかな・・
ホントは、・・ただくやしくて、
あの人が一番苦しむ方法で追い込もうとしてたのかな・・
もしかしたら今もこうして・・
あの人がもっと苦しむ方法をどこかで考えてるのかもしれない。
自分のこともよくわかってないくせに・・
一人前に、私は他人とわかり合える気がしてたんだ・・(5巻)

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今は、自分探しなんて言葉があるけど、
あたしは自分なんて探してなかった。
どうせ見つけたところで自分がくだらない人間なのは十分承知だったし。
・・むしろ、あたしは誰かに見つけられるのを待ってたのかもしれない。
あたしは居場所が無くて逃げまわってただけなんだ。
どこにも居場所が無い。
はァ~ア・・明日の午後・・
医者は簡単な手術あとか言ってたけど、もしこれで死んじゃったらどうしよう?
このまま生き続けられたとしても、それはそれでどうしよう・・。(6巻)

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