モノ作りの仕事では、常に自分の作りたいものだけを作ることが出来るわけではない。
どちらかといえば、そういう恵まれた条件で制作が出来ることは稀なケースで、何かを作ろうとする過程には多かれ少なかれ、必ず制約がつきまとう。
たとえばシステムの開発で言えば、それは納期であったり、予算であったり、技術的な壁であったり、クライアントからの無理難題であったりする。
しかし、「いい仕事が出来た」と思う時というのは、そういった悪条件が重なったにも関わらず、それを乗り越えて一つの作品が出来上がった時なのだと思う。
この映画は、そういったモノ作りの難しさと喜びを見事に表現した名作だ。
物語の舞台は、戦時の言論統制下の日本。その時代には演劇の台本にもすべて検閲が入り、お上の許可を得ない演劇は公演をおこなうことが出来なかった。
外国語は禁止。「お国のために」というセリフが3回以上ない劇は禁止。たとえ喜劇であっても、客を笑わせる描写は禁止。
検閲官が次々と出してくる制限の中で、劇作家はどうやって表現活動をおこなうのか。どんな無理難題を出されても、劇作家は決してあきらめることはない。そしていつしか、検閲官と劇作家の間には共通の情熱が生まれる。
環境が良くないとか、クライアントの理解がないといった理由でいいモノが作れないのだとしたら、それはどこかに甘えが残っているのだと思う。
本当のクリエイターとは、悪条件の中でこそ、それを突破して優れた作品を作る意思と能力を持っている人のことだと思うからだ。
こんなに、笑って、なおかつ感動した映画は初めてだった。
今何かを作っている、すべての人にオススメの作品。